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認めたくないこと20
目を開ける。
ぐっと腹に力を入れて起き上がる。
顔にかかった髪を無造作にまとめて結ぶ。
部屋を見回す。
拓がいない。
ベッドの傍らには確かに眠ったあとの毛布がくしゃくしゃになって置いてあった。
体が凝っているのを感じて見下ろすと、制服のままで眠ったことを思い出して深く息を吐いた。
夢の間に記憶に靄をかけた。
自己防衛。
壊れそうな心を凍らせて。
シーツの皺を見つめる。
俺はなんでここにいるんだっけ。
拓の部屋に。
カーテンを気だるく押し開く。
そう遠くない場所に拓の母親がいる病院の白い壁が見える。
父親は海外の仕事を優先して、拓の姉と一緒に向こうで暮らしてるって聞いた。
中学にして独り暮らし。
けど俺も似たようなもんか。
母親を思い浮かべると胃の辺りに不快感が込み上げた。
首筋を擦り、脚を立てる。
体の向きを変えて、床に足を放り立ち上がろうとしたときだった。
「忍、起きてたんだ」
タオルを手に拓が現れた。
その余りに普通な挨拶に応えられなかった。
「ひょっとして起こしちゃったか? 今風呂溜めてるんだ。忍昨日そのまま寝たから」
シャワーの音が聞こえる。
「た……」
「今日は土曜日だろ。オレ、母さんの見舞いに行くんだけど忍も一緒行かね」
いつもの笑顔。
けど、なんだ。
俺はそれを直視できなかった。
だって
てめぇらしくねえから
乾いた言葉に張り付けた笑顔。
俺を気遣ってんのか。
いや、だったら拓はもっとぎこちない。
「なあ……拓」
「ん?」
まだ体が汚れたままの今だから。
だから、言えたのかもしれない。
自分を追い詰めるような質問。
「昨日、俺どうやってここに来たんだ」
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