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一周してわかること23
客室から少し離れた一角。
そこに庭園はあった。
白化粧を被り、静かに佇む石燈籠。
どこから集めたのか、なぜその白さを保っているのかというほどの白石が一面に敷き詰められている。
松や桜が頭をもたげ、こちらを窺うようにじっと息を殺している。
「なんか……怖いですね」
女将はそれに穏やかに笑って答えた。
「先代が構想なさったのです。一時は客人に人気でしたがね。貴方のおっしゃる通り、不気味だと感じる方が多数でございました。だから非公開になったと言われております」
「不気味? というよりは……なんていうか初めて神棚見たときみたいな、畏れ多い感じって言うか」
「お客さんは気が合いますね。正に私もそう思いました、初めてこの庭に案内された幼子の頃」
それから数分ほど黙って景色を楽しんだ。
お寺の本堂に座っているように、芯から落ち着く。
俺は拓と来ていることさえ忘れかけた。
「御髪を結わせていただけませんか?」
突然女将が云った。
「髪を?」
まだといてもいないそれを指で撫でる。
女将は懐から黒い漆の棒を取り出した。
梅の模様が散りばめられている。
「……簪?」
「ええ」
俺は縁側に座らされた。
断ろうとは思わなかった。
それにこの女将がどう結うのか気になった。
ゴムで縛ったことしかない髪は、すでに腰元まで伸びていた。
女将の冷たく優しい指先が頭皮を撫でる。
いつもなら他人に触れられることは嫌悪でしかないのに妙に落ち着いた。
ああ。
例えるなら……母親だ。
こうやって黙って背中を預ける存在。
昔俺の髪を一度だけ結んでくれたババアとは格違いだ。
「女将さん。相談してもいいですか」
「なんで御座いましょう」
女将は手を止めずに尋ねた。
髪の束が彼女の手の中でしなやかに形を得ていくのが心地いい。
「昨日俺のこと女だと思ったって云ったじゃないですか」
「御来館なさった時ですね」
「俺は今男に恋をしています」
女将がピタリと手を止める。
「それって今の俺に叶うことなんですかね」
馬鹿げてる。
心の中で自分を嘲笑する。
なにも知らない女に何を訊いている。
けど、自分の数倍の年月を過ごした女将なら、何かをくれる気がしたんだ。
道を。
選択肢を。
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