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おまけ04

 半分ほどなくなってから、カレンダーを見る。  六月十二日。 「なんの日つったっけ?」 「ほいひとのひ」 「飲んでから言え」  ビールグラスを突きつける。  喉を鳴らしながら流し込むと、拓はニコリと顔を緩ませて言った。 「恋人の日」 「半年早くね?」 「外国のクリスマスは家族で祝うんだぞ」 「リア充の公認セックスの日だろ」 「前から思ってたんだけど、忍って童貞?」  バキン、と噛み割ったカルビの骨をしげしげと眺める。 「これって殺傷力どのくらいだろうな」 「ごめんなさいごめんなさい」  中の黒く固まった身を食みながら睨む。 「なんで今更?」 「大学だとそういう話になるから」 「てめえは何て答えてんだよ?」 「……童貞」  笑いを堪えすぎて頬がひきつった。 「そんな顔するならむしろ罵れよ!」 「可哀想になあ」  骨を皿に捨て、肉吸いの出汁を飲む。 「大学てヤることしか考えてない奴多すぎんだよな。その人数は上手く行かなかった数だろうが。自慢すんなって思うわ。たまに疲れるんだよな、そーゆーノリ」  きょとんと拓を見てしまう。  サラダをつついていた拓も目線に気づいて首を傾げる。 「……なに?」 「いや……意外つか。てめえも人との会話面倒になったりすんだなって」 「忍は俺をMCだとでも思ってんの」 「あー。そんな感じ」  大袈裟に溜め息を吐かれる。  「ペラペラ喋れんのなんて忍の前くらいだっつの」  こいつ。  数秒静止してしまった俺は、口を押さえて何かを言おうとした自分を閉じ込めた。  末期だ。  いや、アメリカ行った時点で自覚はしてたが。  どんだけ好きなんだよ。  こいつのこと。 「忍ちゃん?」 「コーラおかわり。注げ」 「手酌は出世しないんだっけ?」 「しても仕方ないけどな」 「俺は黒スーツで社長室で足組んでる忍見たいなあ。あっでもそしたら美女秘書雇うんだろ!? やべえダメだ。忍のプライベートがリークされる」 「妄想で慌ててんじゃねえよ」  黒スーツでって。  格好良いのか、それ。  いまいちこいつのツボがわかんねえんだよな。  会ったときからだが。  こないだPC用眼鏡を着けていただけで悶絶していたくらいだ。  どこかしらストライクポイントがあるんだろ。  すっと視線を拓の首筋に移す。  綺麗な喉仏の陰。  背中の筋肉が少し目立つ肩ライン。

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