3 / 341

噂を確かめて03

「お待ちしてました、お姫様」  黒のドレスと羽根のようなストールを纏った女性に手を差し出す。  扉を開けると、出迎え組が声を張って歓迎する。 「ようこそシエラへ」  一斉にお辞儀をする。  その間をNO.1ホストである類沢が女性と共に歩く。 「光栄よね、雅と一緒にいられるなんて」  ヒョウ柄のスーツの襟を整えて彼は微笑む。 「僕の方こそ光栄ですよ。貴方のような美しい女性に御指名していただけて」  すぐに扉が開き、次々と客が入ってくる。 「あっ。紫織さま、お久しぶりですね!」  NO.2の紅乃木が駆け寄る。  抱きつく紫織の腰元に手を添えつつ、類沢の方を見る。  彼の方も鋭い瞳で視線に答えた。  頂上争いは終わらない。 「ドンペリ、入りました」  金を落としてくれる客を得なければ、簡単に上下が変わる。  シャンデリアの下、煌びやかで醜い世界。  ここが僕の生きる場所、類沢はグラスに口を付けて目を細めた。 「ねぇ、雅。今夜空いてる?」  一夜限りの付き合いが許される。  長く続くことほどタブーとされる。 「良いですよ、どこへでも」  ただし、店の中が勝負であり、体を売るのはルール違反。  買われるのも同じ。  上位の者はそうした噂に左右されるため、安易な行動は出来ない。 「じゃあ……朝まで一緒にいてくれる?」  つまり、この質問に答えるのも重要な起点だ。 「貴方が望むなら、いつでも」  舌の上で腐った返し。  それでも彼女は喜ぶ。  バーに行って、ドライブをして。  それから以降はどう想像するのか。 「リシャーレ入れちゃお」 「どうも」 「ようこそシエラへ」  少し入り口の空気が変わる。  チラリと確認すると、男の影が見えた。  基本的に女性専用とは言え、時折同性が来ることもある。  それは、自分の女性を悦ばせる手段だったり、彼女と来る物好きだったりする。 「NO.1てどれ?」 「ちょっと、瑞希! 言葉気をつけて……雅さん本当にヤバいんだよ」 「お客様、本日は雅を御指名ですか」  類沢はグラスを置いて見守る。  物珍しさに指名してくる初心者も偶に来るが、避けるにこしたことはない。  普段の御得意が待たされるからだ。 「お願いできますか」 「出来るでしょ」  そして、彼の姿を目にした。  背は百七十前後。  幼さの残る青年。

ともだちにシェアしよう!