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噂を確かめて02
「みーずき!」
「暑い! しがみつくな!」
突然後ろから腕に抱きついてきた影の頭を叩く。
「それが彼女にする態度ぉ?」
西河南。
にしかわみなみ、じゃない。
にしかなん。
かなんだ。
「河南、用事があるなら普通に来いって言ってるだろ」
知らないとふてくされるように首を振る。
つい二カ月前から付き合っているが、発展のスピードが尋常じゃない。
いや、最近の恋愛なんて基準がないから、それが普通なのかもしれないが。
まず、告白された次の日にお互いのファーストキスを失った。
というよりは、河南の方から自爆しに来たというか。
それから付き合いを始めた日に彼女の家でした。
一週間でゴールしたというか。
いや、恋愛にゴールがあるのかもわかんないけど。
大胆な天然という形容が相応しい。
初カノってみんなこんな狼狽えてしまう感じなのか。
「ねぇ、喫茶店行こうよ。喉渇いた」
「はいはい」
緑と黒を基調にした全国チェーンの珈琲喫茶に入る。
俺はブラックコーヒー。
河南はトロピカルフローズンを注文して席に着いた。
煌煌した液体を美味しそうに飲む姿に力が抜ける。
「ねぇ、一口飲んでみて」
「あぁ?……甘いの苦手なんだって」
「おいしいから!」
言われた通りにストローを口に含む。
同時に甘ったるい香りが肺に流れる。
それでも息を吸って一口喉に送る。
「どう?」
しばらく口を押さえてからコーヒーを一気飲みする。
「あ……んまっ!」
「嘘だぁ。こんなに控えめなのに」
「もっかい言ってみ」
「こんなに控えめなのに」
「嘘つけ……」
結局彼女が飲み終えるまでたっぷり一時間、俺はその液体から目を逸らして話した。
店を出てから少し歩くと、風景が変わってきた。
ピンときて、河南の腕を引く。
「な、なに?」
「その先、歌舞伎町だから」
あんまり、いや、かなり行きたくない街。
雰囲気が、とか空気が、じゃなくて素直に怖い。
金の臭いが漂ってる気がする。
しかし、河南は興味深げに向こうを見つめている。
「河南?」
「あ、いや……ちょっと気になって」
「なにが?」
「い、いいよ。なんでもない」
真っ赤になって引き返す彼女に違和感を覚えながらも追いかける。
夕刻。
ネオンは少しずつ陽光に勝り輝き始めていた。
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