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郷に入ればホストに従え04

「企んでるってなにを」  サングラスをドアポケットから取り出しつつ、類沢は尋ねた。 「企んでるように見える?」 「見えます」 「敬語似合わないねぇ」  バカにしてるんだろうか。 「だって、なんで服を買いになんてきたりするんですか」  彼はサングラスをかけてエンジンをかける。 「その服で接客する気だったのかな」  突然低い声で言われると背筋に緊張が走ってしまう。  シャツの裾を無意識にいじる。  どこを見ればいいんだろうか。  前を向いていると、横から視線を感じる。  そちらを確認しても、彼の眼は逸れている。  そういえば……。 -気に入ったよ-  血が頭に上る。  俺は思い出さなくても良いワンシーンを浮かべて赤面した。  心臓が早鐘を打つ。  平静を保とうとするが、急に車内の甘い香りや、細かな装飾全てが気になり出す。 「じゃあ……行くけど大丈夫?」 「はい?」 「だから、これから初仕事行くけど、顔色悪いから大丈夫かって」  やばい。  見られていたのか。  俺は自然を装って窓にもたれる。 「暑いだけです」 「クーラー点けてるんだけどね。中に入ったら、まず篠田ってチーフに挨拶に行って。それからロッカーの端が空いてるから買った服に着替える。初日はヘルプにつけばいいから」 「類沢さんの?」 「それが良ければ」  類沢は少し嬉しそうに笑った。  カーブを曲がる。  段々見慣れた場所に帰ってきた。 「そういえば、酒は」 「あんまり飲んだことはないですけど……」 「無理はしないで、早めに席を外しなよ」 「いいんですか」 「ちゃんと戻るならね」  音を立てずに車庫入れする。  ここは店の駐車場だろうか。  いや、東京の歌舞伎町に駐車場あるか。 「降りて」  慎重に買い物の袋を持って、類沢について行く。  車庫の奥に灰色の豪壮な扉があり、淡い光に照らされる。 「靴は脱いで」 「ここで?」 「一応、家だから」 「誰の?」  類沢はウィンクをした。  嫌な予感がする。  だから、ここはどこなんだろうか。  大理石を踏みしめ部屋を進む。  三十畳ほどのリビングがあり、ホテルのように綺麗な西欧風の家具が迎える。 「店に行くんじゃないんですか?」 「シエラは裏だから」 「裏?」 「いいから、飲み物でも飲んで」  グラスを渡される。

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