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郷に入ればホストに従え03

「うっわ……」  俺は白い店内をキョロキョロと見回してしまう。  やはり紳士服店とか俺が知っている大衆レベルじゃない。 「今日は彼の服を頼みたい」  常連なのか、すぐに女性が応対し、俺は別室に連れて行かれる。  抵抗する意味も無いので、光沢あるスーツが並ぶ室内を大人しく横切る。  類沢は自分は用がないと言いつつも、今年の新色であるスーツとやらを物色していた。  俺が戸惑いつつ視線を送ると、「いってらっしゃい」と爽やかに笑った。  誰だっけ。  そんな錯覚が起こりそうな、別人の笑みだった。  なんだか類沢の暇つぶしに付き合ってるような理不尽を感じながらも、指示に従ってサイズを測る。  慣れないことばかりで無口になってしまう俺を、黒いショートスーツが似合う女性達は楽しそうに眺めていた。 「腕を上げて頂けますか?」 「肩の力をお抜き下さい」 「こちらの色は如何ですか」  はぁ、とかまぁ、とか。  もうちょっと上手く日本語使えると思ってたんだがな。  しばらく悩んでいると、否、何もわからず途方に暮れていると、一人が外に出て行った。  余計緊張して、体が強張る。 「へぇ。成人式とかで新調したりしなかったんだ」  びくっと背中が飛び上がる。 「着心地は?」 「……わかんないです」  類沢は俺を一周回らせて、じっくりと見定める。 「あのグレイの、ドルガバのは?」 「ドルガバ?」 「……お待たせ致しました」  首もとにハンガーを当てる。 「合うんじゃない」 「ドルガバってなんですか?」 「ねぇ、これにするから」 「……あの、ドルガバって」 「かしこまりました」  とりあえず、俺の意見は重要でないようだ。  少し寂しくなりつつも、眩しい店内が肌に合わず、早く帰りたい気持ち一心になっていた。 「クレジットで」 「あ……代金」 「借金に上乗せね」 「えええ」  二倍になったんじゃないだろうか。  俺は美しいスーツが怖く見えた。 「なんで黙ってるの」 「あの、類沢さん。服を買いに着たんですよね」 「そうだけど」  車のドアを閉めながら類沢は頷く。 「俺のを」 「そう」  エンジンがかかる。 「なんか気になるの?」  ハンドルに手をかけ、ミラーを整える。 「……なに企んでるんですか」 「え?」  類沢は鍵を回してエンジンを止めた。

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