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郷に入ればホストに従え06

「ようこそ、シエラへ」  ホスト達の声が聞こえる。 「君が、雅が見込んだ青年だって?」 「そう」 「違います。弁償出来ないから働かせられるだけです」  篠田というチーフは机越しに俺を眺め回した。  緊張して肩が上がる。  深呼吸をするが、心臓は早まるばかりだ。  初めて思った。  プロのホストは、裏業界の匂いがする。  要するに怖い。  オーラが怖い。  類沢は、まだ柔らかい方か。  篠田のカラコンを入れた緑の瞳が直視出来なかった。 「働かせられるだって。どういう身かわかってないんじゃないか」  ガタリと篠田が立ち上がり、パイプ椅子に座る俺に迫る。  類沢は扉にもたれたまま、事態を見守っている。  首の後ろに手を回され、互いの額がくっつくほど前に倒される。 「あ……あの」  篠田の顔が目の前にある。 「ここが嫌なら、もっと高額で稼げる業界に売っても良いんだぞ?」  つまり、ビデオ業界ってことか。  息が止まりそうな程、篠田の迫力に圧される。 「す、すみません」 「言葉遣いに気をつけろ。いいか」  そこで解放される。  パイプ椅子にもたれるが、すぐに状況を思い出し背筋を正した。  それを見て篠田は笑いながらタバコをくわえる。  火を付けると、一息吐いてから俺に向かって云った。 「郷に入ればホストに従え。ここでのルールを早く学ぶんだな」 「……はい」 「瑞希」  びくっ。  今まで黙っていた類沢が冷たい声で呼びかける。  怖くてそちらが見れない。  諭すように、彼は続けた。 「返事」 「……っはい!」 「はぁああ……」  事務室を出てため息を吐く。  だが、すぐに開いたドアから類沢が出て来た。 「うわっ」 「邪魔だよ」  急いで道を空けると、類沢は一瞥もせずに明るい店内に去っていった。  なんだよ。  なんか、厳しくなってないか。  俺は毒づきながら足を踏み出した。 「ドンペリ入ります」  入り口に並んでいると、背後の声と同時にそばの先輩達が俺を見た。 「はい?」 「なにボサッとしてんだよ」 「早くボトル入れてこい」 「あっ、はい!」  早足で裏に向かう後ろで、耳障りな笑い声が聞こえた。  ボトルを盆に乗せて、慎重に運ぶ。  随分と店が広く感じた。  もっと狭くてもいいじゃないか。 「ドンペリ、お待たせ致しました」  

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