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郷に入ればホストに従え07

 ちゃんと周りと同じように言ったのに、客は眉をしかめて俺を見る。 「ねぇ、この子新人?」 「なんか雑だよね」  俺はそこで初めてテーブルに水滴が散っているのに気づいた。  そっと置かなきゃ駄目なのか。  冷や汗が流れる。 「名前は?」 「え?」  すると、女性の隣にいた赤髪の男が鋭く俺を睨みつけた。  確か、NO.2の紅乃木哲。 「あ、えっと」  こういうのって本名なのか。  それとも偽名なのか。  篠田さんに聞けば良かった。  だが、紅乃木の威圧感に耐えきれず、結局本名で名乗った。 「瑞希だって、かわいい」 「そう?」  女性の一人がタバコを取り出した。  すっと紅乃木が火をつける。  俺もああしなきゃ。  一つずつ学ぶんだな。 「ところでアカ~。今度新作の服発表するんだけどモデルになってくれない?」 「光栄ですね」  俺は去り際だと悟り、礼をして下がった。  入り口に戻りながら店内を見回す。  キラキラ。  煌煌してる。  眩しい。  色んな客がいる。  若いのも、定年過ぎも。  そして、俺の目線は一点に止まった。  店の中央の丸テーブル。  まるで完全なプライベート空間のように仕切られた場所。  そこで微笑む類沢に。  セットした髪が妖しく揺れる。  美しい。  いや、綺麗。  違う、絢爛?  どの言葉も相応しくない。  類沢雅。  歌舞伎町NO.1。  少し寒気がして、俺は歩き出した。  入り口に着くと、先ほど指示した男はもういなかった。  指名されたのだろうか。  突然、童顔の青年が歩み寄ってきた。  自然に並んで、囁くように話しかける。 「新入りだよね」 「今日からです」 「千夏だよ、よろしく」 「ちな……つ?」 「そう、千夏」 「へぇ」 「へぇ?」  千夏の目が光る。 「あ、俺は瑞希です。よろしくお願いします」  えへへ、と千夏が笑顔になる。  なんか和む。 「そのスーツ、ドルガバだよね」 「あ、はい」 「お酒零さないようにね。凄いスーツなんだから」 「え?」 「ようこそ、シエラへ」  指名され千夏が行ってしまってから、俺はスーツを見下ろした。  ドルガバ。  そんなに凄いのか。  俺は襟元を正して、ぴんと背筋を伸ばした。  こんなスーツ着たことないしな。  少し、顔がにやける。

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