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郷に入ればホストに従え10

 こんなとこ誰にも見られたくないな。  赤の他人と歌舞伎町で食事とか。  類沢は車を使わず、近くのレストランに歩いていった。 「地味な店だけど、ミシュラン一つ星もらってるイタリアンなんだよね」  通り過ぎる女性たちが悩ましげな瞳で類沢を追う。  やはり、目立つ。  歌舞伎町NO.1だからなのか、本人の持つオーラなのか。 「そうそう、外ではハルって呼んでくれる」 「ハル?」 「シエラのNO.1は一人では出歩かない」 「?」  意味が汲み取れずに首を傾げる。  すると、類沢は俺の肩に手を回した。 「ちょ」 「キミが彼女役なら良いんだけどね」  そういうことか。  俺は不思議な気分になる。  NO.1だから。  その響きが切ない。  自由がない。  そんな含みがあるから。  類沢はニコリと笑むと、そこだよと店を指した。  なるほど、通りから少し外れた場所で知っていなければ見つからない。  スタスタと慣れた足取りで進む類沢は常連だろうか。 「いらっしゃいませ」  声ばかりで、ウェイターが出て来る気配はない。  類沢は構わずカウンターに腰を下ろす。  グラスを磨いていた初老の男性が目を上げる。 「今日は連れがいるんだね」 「新入りだよ」  マスターか。  俺を手招きする。 「暫くぶりだな」  類沢は神妙に頷いた。  やはりよく来るのか。  顔見知りといった雰囲気だ。 「最近動きは?」 「特にないねぇ。ガヴィアのトップが変わった位だ」 「あぁ、あの男ね」 「そのうちシエラを荒らすかもな」 「忠告は受け取っておくよ。暴力団との繋がりもあるしね」  何の話だろう。  俺は出されたアイスコーヒーを啜る。  美味しい。  少なくとも、さんぴん茶や抹茶よりは飲みやすい。  注文もしていないのに、奥から皿を持った青年が現れた。  トマトとチーズのカプレーゼ。  バジルが乗っかっている。 「どうぞ」 「……いただきます」  なんか緊張する。  一口食べると、今までにない繊細な味がした。  チーズはしつこくなく、トマトはほんのり甘い。 「美味しい?」 「美味しいです」  それを聞いて類沢は目を細めた。 「圭吾が継ぐの?」 「あいつはホストを諦められないみたいだがなぁ」  さっきの青年らしい。  ホストになりたい彼は類沢を見て何を思うのか。

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