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郷に入ればホストに従え09
「何をそんなに怒ってるの?」
この男は……
俺は玄関で立ったまま動けずにいた。
気にしないように類沢は部屋の中に入ってゆく。
「理由を教えて下さい!」
叫ぶと、すぐに彼はスーツを脱いだシャツ姿で戻ってきた。
ワックスのついた髪を乱して、煙草を片手に。
「なんの?」
「部屋を取り払った理由です! 俺の荷物もなしに!」
「だって借金返済を早くして欲しいからさ。家賃だって馬鹿にならないだろ。大学も返済終了するまで行かせないから」
だから、何を言っているんだ。
「携帯と財布は持ってるよね」
「はい」
「なら大丈夫」
なんなんだ。
俺はホストに生活費やさなきゃいけないのか。
「今日から……ここで暮らせってことですか?」
「そう」
あっさり言われて眩暈がした。
類沢が心配そうに手を伸ばす。
支えられると、煙草の匂いがした。
嗅いだことのない種類だ。
「ほら、酔い醒まさないと」
俺は脱力したままリビングに連れて行かれた。
氷の入ったお茶を渡され、警戒しつつも口をつける。
「……!」
「あ、苦かった?」
深呼吸をするが、渋みが喉まで来る。
「なんすか、これ…」
「抹茶」
「は?」
「いや、酔い醒ましには丁度いいかなぁって」
煙草を金色の灰皿に置くと、自分の分を飲み干す。
上下する喉を凝視してしまう。
体の全てのパーツが惹きつけられる。
なんなんだ、本当に。
「いつも、抹茶飲んでるんですか」
「変?」
「変て言うか……イメージじゃないんで」
「イメージねぇ……」
類沢は真顔になって、煙草を咥える。
沈黙が重い。
そもそも、彼は赤の他人だ。
なんだ。
なんで、二人きりなんだ。
ワケがわからない。
「僕のイメージってどんな?」
「え」
「歌舞伎町NO.1ホスト類沢雅?」
「……えと」
類沢は虚しそうに空笑いした。
「ほら、会ったばかりの人でさえ、そのイメージなんだよね」
グラスを流しに運ぶ背中に、凄く寄り添いたくなる寂しさが漂う。
「お腹空いてない?」
「空い……てますけど」
類沢はキッチンから出てくると、財布を手にとって俺の肩を叩いた。
「外に食べに行こう。デビュー祝い」
「ホストの?」
「そう」
おめでたいだろう?
そんな口振りが、一層空気を空しくさせた。
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