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郷に入ればホストに従え14
「スポンジとかじゃないんですか」
河南がしていたのを思い返す。
類沢はムラを無くすように俺の頬を撫でた。
「どんな高性能の道具も人間の手には適わないんだよ」
そうなのか。
それから類沢は少し赤みがかったチークを施す。
少し紅潮した、健康味のある表情の自分がそこにいる。
「うわぁ……」
「変わるもんだね」
「わ……え?」
「あぁ、あんまり触んないの」
俺は手を下ろした。
すごいな。
顔って変わるんだ。
ワックスを借りて髪もセットした。
大分昨晩の自分と印象が違う。
終わると、類沢も化粧を始めた。
その手際よさを見つめてしまう。
「あんまり見つめられるとドキドキしちゃうんだけど」
「うわっごめんなさい!」
あまりに類沢らしからぬ言葉とその声の柔らかさが逆に怖かった。
飛び上がって走り去る俺の背中に、彼の温かい視線を感じた。
もう歌舞伎町が動き出す時間だ。
通りは明るく輝き、人で溢れる。
類沢の家は、その真ん中に立っているみたいだ。
窓から外を眺めて息を吐く。
つい一週間前までは足も踏み入れたことなかったのにな。
不思議だ。
「行くよ」
いつの間にか背後にいた類沢に呼び掛けられる。
また声を上げてしまった。
「あのさ……いつまでビクビクしてるつもり?」
「ご、ごめんなさい」
「可愛くていいんだけどね」
「はい?」
「だから、行くよって」
「ようこそ、シエラへ」
朗々とした声が響く。
開店と同時に類沢、紅乃木、千夏の三人は指名を受けた。
それから一夜と三嗣を探す。
二人は出迎えに出ていた。
心細くなる。
だが、自分も指名を取らねばと張り切って挨拶に向かった。
「おい、新入り」
振り返ると、見たことない男が睨みつけていた。
「お前だよな?」
「え?」
店の裏に連れて行かれると、同時に腹を殴られた。
壁に激突し、咳き込む。
だが、相手は躊躇なく蹴り上げる。
「…がっ…は」
「探してたんだよねー、宮内くん?」
また蹴られる。
吐き気を堪えて転がった。
なんとか立ち上がって、男と向き合う。
「恨みでも……あるんですか」
口の端から血が零れる。
スーツにも血がついている。
あーあ、高いのに。
「忘れてんじゃねえっての」
思い切り頬を殴られる。
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