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体を売るなら僕に売れ12
「次の患者が来るから、早めに出て行くよ」
俺はいくつも言葉を飲み込んだ。
見てたんですか。
聞いてたんですか。
蓮花さんに何か言われましたか。
俺、ちゃんと断りましたよ。
ああいうのがタブーですか。
断って正解でしたか。
「あ……はい」
類沢は頷いてから歩いてくる。
何か云われるかと思ったら、シャツを正された。
知らぬ間に蓮花がボタンを外していたみたいだ。
冷や汗が吹き出すのを必死で隠し、頭を下げる。
「傷痕綺麗になったね」
「ですね…」
悠は腕は良いのだろう。
なにせシエラお抱えの医者なのだから。
鏡で確認した時、俺も同じことを思ったのだ。
これなら客に心配かけたりしない。
多分。
類沢は意味ありげに俺の頬に視線を走らせ、玄関に向かった。
頬。
蓮花にキスされた場所。
とにかく背中を追うしかなかった。
「もう来んなよ」
悠がそっけなく言った。
隣で鏡子が小突く。
「そんな捻くれた言い方やめなさいよー。もう怪我しないでねって優しく」
だが悠は口を結んだ。
対照的な夫婦だ。
楽しそうなくらい。
蓮花は先に帰ったらしい。
飲んでいたからタクシーだろうか。
類沢とは入れ違いだったようだ。
安心なような、不安なような。
「ありがとうございました」
「今度は自分の金で来い」
「また来ていいんですか?」
「怪我したらな」
だからするなよ。
そんな響きがした。
栗鷹診療所。
好きになってしまった。
また来たい。
不謹慎なことを考えてしまう程。
車に向かう途中で、前から人影が近づいて来た。
「おやおや~? 雅さんじゃないですかぁ」
類沢が小さく舌打ちをするのを見てしまう。
「これはこれは、雛谷空斗さん。気持ち悪い位奇遇ですね」
「つれないですねぇ。流石はシエラの悪魔だ」
わかる。
端からでもわかる。
この二人は犬猿の仲って奴だ。
白のズボンに黒いシャツ。
肩までのカールした髪が月光に照らされる。
「新人ですかぁ?」
俺を捉えた瞳から守るように類沢が腕で俺を隠す。
「触れないでくれますか? うちの大事な従業員で怪我人ですから」
雛谷は伸ばした手を握り締める。
「可愛ぃ……欲しいです」
類沢が目を細める。
「其方にも同じ年齢の新人が大勢いるじゃないですか」
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