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超絶マッハでヤバい状況です07

「一夜……」  明るい声と、笑顔。 「三嗣のやつが仮眠室でそのまま寝たって言うからさ、心配してたんだ。睡眠不足に酒はキツいからなー。気をつけろよ。今夜は蓮花さん来てなかったから、そこは幸いだったな。客を待たしたりしたらそれこそ」 「一夜!」  いたたまれない。  濡れた髪が。  強張った口元が。  つい、叫んでしまった。 「……聞いたか」  笑みが崩れる。  三嗣のブラシが止まった。 「まぁ、ああいう客は今までにもいたよ。相手したのは初めてだったから……ビビったけどな」 「一兄、おれ」  言葉に詰まる。  そりゃそうだろう。  目の前で兄が侮辱されたら、弟にとっては腸煮えくり返る思いだったはずだ。 「三嗣が気にする必要はない。チーフが対応してくれたし、もう来ないだろうよ」 「……そうかな」 「そうだ」  突然違う声がした。  入り口に、千夏が立っている。 「一兄、助けに行けなくてごめん」 「ばか。お前は今夜動けなかっただろ。やっと団体客掴んだんだ。自分のことに集中し」  バサッ。  千夏がスーツを脱いで、一夜に被せた。  黒く、銀糸の混ざったスーツ。 「……千夏」 「クリーニング間に合わないだろ。オレ、一兄がいないシエラで働ける気がしないから。そのスーツ、サイズが合えばいいけど」 「いいって。お前に迷惑かけ」 「迷惑じゃないから!」  脱ごうとした一夜が固まる。  俺はただ、見守っているしかなかった。  兄と弟と共にホストでありながら、頂上争いに身を投じる千夏。  だが、孤立感はあるんだろう。  今は一人で暮らしていると聞いた。  二人を支えるために。 「……こんなことしか出来ないんだから、受け取ってよ。一兄」  無力感も味わいながら。  今日だって、その客を殴りに行きたかったはずだ。  類沢以上に。  でも、出来ない。  隣には自分を求めて来た客がいる。  暴力沙汰なんて、出来ない。 「わかったよ。暫く借りる。ありがとな、千夏」  頷くと、そのまま出て行った。  淡いグリーンのシャツ姿で。  その背中は、怒りを抑えるように張っていた。 「俺も情けないな。まだまだ弟に頼ってるなんてよ」 「一兄はなんにも悪くないだろっ」 「そうかな」 「そうだよ」  俺はやっと言えた。 「そっか……帰るか。三嗣」 「りょうかーい!」

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