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超絶マッハでヤバい状況です11
電話が振動する。
俺は今、泣きそうになりながら座って指示を待っていた。
そっと携帯を耳に当てる。
「瑞希、準備は?」
「全く」
「ま、落ち着いていればいいから」
「類沢さん……」
「情けない声は出すな」
「はい」
キョロキョロしないよう、気をつける。
ヤバい。
心臓がヤバい。
口から出そうとはこのことだ。
俺は、インテイスの裏にいた。
お洒落な外観は、興味本位では入らせない威圧感を漂わせている。
会員制。
そんな匂いすらする。
勿論、そんな規制はない。
若者が集うクラブ。
女性が集団で現れる。
びくりとした。
あれは、紅乃木の客。
それから千夏の客。
見たことある女性が何人も。
みんなチケットみたいのを持っている。
なんだ、あれ。
沢山の女性の後に、黒スーツの男性が三人続く。
「類沢さん、来ました」
ここからは携帯は使えない。
小さなマイクを仕込んだボタンに囁く。
篠田が手配した隠しマイク。
何に使っているかはきかないでおいた。
イヤホンは髪に隠して右耳に。
「なんか、危ない男性方がいます」
「へえ」
「類沢さん?」
「いや、楽しみだなぁって」
る……類沢さん?
ガタン。
何かが閉まる音。
「密室とは、いかがわしいなぁ」
びくりと肩が飛び上がる。
聞き覚えのある声。
ゆっくり振り向いたら、予想外で予想通りの男が立っていた。
「ひ……」
指を口に当てられ、シーッと言われた。
類沢が知ったらどんな顔をするだろうか。
「うちも今夜仕掛けるつもりだったんだぁ。奇遇だね……なんて」
雛谷空斗。
キャッスルのチーフ。
本当に奇遇か怪しい。
俺はマイクとイヤホンをバレないように隠す。
「なんで、ここに?」
「瑞希だっけ? 知ってる? ここがどういうクラブか」
「いえ……」
雛谷が歪んだ笑みを浮かべる。
闇夜に染まり、鳥肌立つ。
「うちの通称は蟻地獄。インテイスなんて柔らかい意味はない。入ったら抜け出せない……蜜壷みたいな地獄だよ」
「蟻、地獄」
俺は恐る恐る裏口を見た。
中で、何が行われているのか。
ガッと雛谷が肩を抱く。
離れようとする前に、耳元で囁かれた。
「瑞希は落ちたら終わりだよ?」
嫌に鼓膜に残るセリフを置いて、雛谷は誰かに合図を送り去っていった。
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