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超絶マッハでヤバい状況です16
男達に囲まれる前に背後を塞ぐ。
相手も速い。
しかし、出口は背中。
それほど不利ではない。
「話し合いに来たのですが」
「一応聞こう」
秋倉は真ん中の椅子に座った。
短い脚を組んで。
「シエラの客を返してもらいたい」
「返してもらえるとでも」
「それと」
相手の言葉を断ち切る。
「二度とシエラに手を出さないで、二度とその醜い顔を見せないでもらいたい。吐き気がします」
秋倉はカラカラと笑った。
「そんな怖い顔をするな」
立ち上がり、近づく。
蹴り飛ばそうとしたが、彼は胸元から銃を取り出し類沢の左胸に当てた。
俊敏な動きだった。
体からは想像できないほど。
秋倉の顔が迫る。
「睨まれるとそそられる……」
鳥肌が立つ。
類沢は目を逸らした。
拳銃がゆっくりと下がる。
「さっきの条件呑んでやってもいいが、こちらにも条件を出させて貰う」
「……なんです?」
千夏が臨戦態勢なのを横目に問う。
「類沢、お前は残れ」
言うとは思った。
まさか本当に言うとは思っていなかった。
「くく……頷くとでも?」
「ああ。頷くさ」
類沢から表情が消える。
「あとな。シエラの客だったか。もう戻らないと思うぞ」
パチンと指を鳴らした後に、甘い香りが漂ってくる。
「吸うな」
三人とも口に手を当てる。
一番奥の扉が開き、女性がよろよろと出て来た。
「紫織さん?」
千夏がはっと呟く。
確か、紅乃木の太客。
いつもはアップにまとめた髪が乱れ、空気を掻くように手を振り回しながら地面に倒れた。
異常。
一目でわかる。
駆け寄ろうとした千夏をとどめ、秋倉を睨みつけた。
「そういう仕組みですか」
「お前ならわかるだろう」
昔、味わった香り。
今は胸焼けしか覚えない。
「他人の客を薬漬けにして奪うなんて、卑怯極まりないですね」
「だが確実だ」
二十余りの個室に寒気がする。
ここで何人の女が狂わされたんだ。
秋倉は巨体を揺らしながら紫織に近寄ると、細い肩を踏みつけた。
「やめろっ」
千夏が叫ぶ。
だが、紫織は人形のようにケラケラ笑うだけ。
グラスを傾け微笑む女性はそこにはいなかった。
「……くそ」
「な? こんな客帰ってくるわけないだろう?」
「死ねよ、屑」
秋倉の首にナイフが当てられた。
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