56 / 341

超絶マッハでヤバい状況です15

 こいつが黒幕? 「悪いが、当店は女性専用でね」  思い出した。  この声。 「秋倉真か」  男、いや、秋倉が立ち止まる。 「ほう。類沢じゃないか。あのシエラにまで嗅ぎ付けられるとは」  秋倉の後ろに十人ほど、屈強そうな男達が控える。  面倒だ。  千夏も必死で思い出そうとしているが、彼は知らない。 「随分ご立派になって……え? 稼いでいるんだろう。恩も忘れて」 「恩? 僕を薬漬けにして客をとらせようとした男娼宿のオーナーに、切りたい恩もありませんがね」 「失礼な。お前なら国一の男娼になれたから見込んでやったのに」  汚い声。  忘れるはずがない。  脳に染み付いた声。  篠田に拾われる前、こいつが手を差し伸べてきた。  孤児院から出て、さ迷っていたあの時期に。 「その宿も潰れて、今じゃ他の店から客を奪う醜い名義屋ですか。僕も逃げ出して良かったなぁ?」 「類沢。まだ俺が怖いんだろ」  黙って手首をさする。  首筋がピリピリと痛む。  もう十年も前の話なのに。 「また帰って来ないか。あのビルは残してあるぞ」  脳裏に映像が蘇る。  灰色のコンクリート。  押しつぶされそうな圧迫感。  痩せた少年達。  目の前の男が鞭を持って近づく。 「よくあの枷を外せたな」  額から汗が滲む。  類沢は右の手首を掴んだ。  まだ、枷があるような錯覚。  電気が流れた感覚。 「ほら、お前はこっちに来るべきだろう」  悠々と手招きするその手を引きちぎってやりたい。  金と欲が詰まった体を撃ちまくりたい。  あんなに肥えているんだ。  血も噴き出るだろう。 「……類沢さん」  千夏が肘を軽く当てる。 「貴方はオレ達のトップですよ」 「……わかってる」  湧き上がっていた熱を押し殺す。  こんなに殺意が芽生えたのは、こいつにしかない。  眼帯を掴んで息を吐く。  冷静にならないと。  次に起こした顔を見て、秋倉の笑みが消えた。  真っ直ぐな藍の瞳。  迷いの無い口元。 「もったいないな、類沢」 「僕はホストですから。客を守りに来ただけです」 「客ね」  秋倉はポケットに手を入れ、何かのスイッチを押した。  途端に真っ白になる視界。  類沢たちは眼帯を反対にした。  ぼんやりと視界が戻る。  円形のロビー。  その壁に並んだ扉。  個室か。

ともだちにシェアしよう!