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超絶マッハでヤバい状況です14

 類沢はイヤホンを襟に隠し、マイクを目立たない位置にしてから千夏と目配せした。  NO.に入っている中で一番冷静なのは彼だ。  だから班を共にした。  兄の復讐を抑えられればいいが。  他に二人の男が後ろにつく。  名前は忘れた。  元から覚えていないかもしれない。  確か、自分が入ったばかりの頃にトップを占めていた二人。  今後ろに並ぶ気分は、好くはないだろう。 「行くよ」 「はい」 「……はい」 「いよいよですか」  類沢は足を踏み出す前に、三人に銀紙に包まれたタブレットを渡した。 「なんですかコレ」 「対中毒性薬物の抗体。マリファナ、ヘロインあたりのね。栗鷹から預かってきた」 「薬物?」  不安げな眼差しの二人とは違い、千夏は大事そうにスーツの内側に忍ばせた。 「使うタイミングは各自でね」  そう言って類沢は歩き出した。  最悪のパターンは一人でも捕まること。  視察に来る手間もなく、名簿を作ってしまえるだろう。  シエラのホストがどれほど店に忠誠心があろうとも、自白の強要はどこまでも残虐にできるものだ。  ここが嫌だ。  ホスト同士なら薬物は使わない、顔には傷を付けないのが礼儀。  営業に支障をきたしてまで勝ちたい馬鹿はそういない。  しかし今回は名義屋というふざけた連中だ。  バックはホストじゃない。  拷問だってしかねない。  名前を覚えていなくとも、仲間が暴力に晒されたくはなかった。 「おい、何の用だ」  使うのもね。 「うちの客を迎えに来ました」  千夏が素早く男の鳩尾に手を伸ばす。  叫ぶ間もなく痙攣して倒れた相方を見て、もう一人が拳を振りかぶる。 「短気は嫌いだ」  男の後ろに回った類沢は、そのうなじを打ちつけた。  目から光が消え、地に落ちる。  ドサッと音が響かぬよう、支えてから壁にもたれかけた。  傍目には傷はない。  千夏がスタンガンをしまう。  細い指を当てて、類沢は重い扉を開いた。  暗い。  灯りは下にある。  青い光。  類沢はメンバーに目配せした。  すぐに全員が片目に眼帯をかける。  同時にドアが閉まった。  残響が耳に残る。 「おや? 客は丁度のはずだが」  前から太い足が歩いて来る。  身構えもせずに、胸を張って。  下から照らされた顔は無様に広がり、肥えた体にかろうじて乗っかっているようだ。

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