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超絶マッハでヤバい状況です22

 インテイスから離れたバー。  吟が経営するそこは、ホストが占めていた。 「ったく。連絡が急すぎんだよ類沢さんよー」 「悪かった」  一番奥のテーブル席に、あの八人が座っている。  俺はそばの小さな丸テーブルから会話を聞いていた。  羽生三兄弟と一緒に。 「雅氏は手はずを整えていらっしゃった。責める理由などないはずではありませんか、空牙?」 「我円の兄さんに言われたら反論出来ねーよ」  そんな父を伴は誇らしげに見つめている。 「しかし、篠田さんの剣幕は流石でしたね……」  紫苑の言葉に軽く首を振る。 「現役に比べたら全然だろう。雅に今は主導権は譲ったしな」 「篠田。そう言う割には嘘を吐いていたよね?」  全員が身を乗り出す。  雛谷だけは、グラスを傾けた。  沈んだ瞳で。 「秋倉の件か? まぁ……背後にあいつがいる確証はなかった。無為にお前を動揺させたくなかったしな。事前に知ったところで同じだったんじゃないか」 「そうかなぁ」  今度は雛谷に視線が注がれる。  本人はワインを見つめて、うっすらと笑った。 「類沢さんなら、秋倉おじさんを再起不能にしてくれたと思うけどー?」 「おやおやおや。雛谷氏も秋倉に恨みでもあるのですか」  類沢は静かに雛谷と目を合わせた。  俺の知らない、何かが交わされた。  それからすぐに二人とも視線を逸らす。  まるで、何かの儀式。  一瞬の儀式。 「別にー」 「何もないよ」 「それでいいんだ、若いの」  吟がカッカッカと笑い、蔵から追加の瓶を運んで来た。  なんだろう。  彼らを取り巻く空気は。  踏み込みはせず。  隔絶もせず。  絶妙な関係。 「みぃずき、飲んでる?」 「アカ!」  包帯を巻いたアカが平気そうに席に腰掛ける。 「大丈夫なのか」  千夏の問いに曖昧に頷く。 「あんな軽い一撃、ヌルすぎて」  一夜と三嗣は居づらそうだ。  あくまでアカはNO.2。  そう気軽く話せない。  これだ。  俺ははっとした。  後ろを確認する。  あの八人にはこれがない。  面倒な上下関係などない。  多分、あるとすれば篠田の位置。  それから吟への尊敬。  そのくらいだ。 「格好いい……」 「誰が?」  一夜が首を傾げる。 「ん。みんなかな」  今夜、俺はまた違う一面を知った。

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