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殺す勇気もない癖に07

「……酔う」 「だから後ろ乗れって言っただろ」  車体にもたれかかる雛谷の背中を擦る如月。  類沢はスーツを正して目の前の倉庫を見上げた。 「るーいさわ!」  バイクのメットを抱えた空牙が手を上げて呼び掛ける。  そばで吟は真剣に銃を磨いている。  彼の銃身はいつでも新品の輝きだ。  確か三十年前のモデルらしいが。 「瑞希ちゃんはここで間違いねぇよ」 「瑞希ちゃん……」  小さい呟きは相手に届かない。  訳のわからない苛立ちを頭部に感じながら、類沢は壁に手をかけた。 「何人?」 「あー……と、十一だ」 「結構だね」 「我円の兄さんが落ち込んでたぞ? 一人頭三人は欲しかったってな」 「誰の話です、空牙氏」  噂をすれば、か。  白髪がオーラを放つ。 「別に気持ちが沈んだりは致しませんよ。獅子は兎にすら全力をかけるのですから」 「ウズウズしてるくせによー」  この二人は大抵ぶつかる。  類沢は伴の後ろから歩いてきた影にアイコンタクトをした。 「篠田」 「おう」  つい春哉と呼びそうになった。  今の篠田はプライベート並みに本性を醸し出しているから。  大分余裕がなさそうだ。  いきなり新入りが拉致られれば普通か。 「眉間にシワだ、類沢」 「え? 本当に?」  気づかなかった。  額に手を当てて小さく笑う。  限界なのはどっちだ。 「突入すんの~、みなごろし?」 「いや……交渉かな」  雛谷は不満げに頬をふくらます。 「なんで? 身内だから?」 「空斗」  如月がその口を塞ぐ。  だが、彼も訊きたいらしい。 「なきにしもあらずだな」 「厭に曖昧じゃな、篠田」  吟が手入れを終えて近寄ってきた。  肩をすくめて。 「昔の息子に躾をするのは面倒なことだ、それは変わらん。たちが悪い息子ほど長く厄介なもんになる」 「経験多そうだな爺さん」 「まあ、な」  類沢は篠田の隣についた。  小声で確認する。 「僕に任せてくれるんだよね」 「死なない程度にはな」  暗がりから紅乃木を先頭にシエラの連中が現れる。 「突入ですか」  千夏が進み出た。  確か初めに瑞希に声をかけたのは千夏じゃなかったか。  ぼんやりとそんなことを思いながら、類沢は頷いた。 「突入だ」

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