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殺す勇気もない癖に08
すぐにシエラのメンバーが倉庫を囲む。
中に入るのは二人。
六人は表に待機。
合図で参入する予定だ。
「刺激はするな。出てきた奴等は全部締め上げろ。交渉は中で済ませる」
「りょーかい」
雛谷以外は無言で頷いた。
ギギ、と嫌な音を立てて扉を開く。
中は薄暗い。
割れた窓から日が差す程度。
広い倉庫の真ん中に、二人男が立っていた。
あと九人は扉を塞ぐ。
それを一瞥して、類沢と篠田は進んだ。
「何年ぶりだ?」
篠田が影に尋ねる。
青年は低く笑った。
「さあね」
「二年だよ」
類沢が鋭く加えた。
「聖」
反応があった。
「僕は前の名前の方が似合ってると思うけどね」
「そうですか」
カツン。
カツン。
鉄の床が鳴る。
篠田と歩調は同じだった。
一つの足音のように。
響く。
自然と二メートル手前で止まった。
「瑞希は?」
聖が首を傾げる。
隣の男も同じ素振りだ。
「ああ……こちらは玲です」
玲と呼ばれた男はだるそうに頭を下げた。
さっきから目障りなのは彼が持つガラスケース。
注射器が入っている。
何に使うのか考えるのも吐き気がする。
「表に八人集揃ってるらしいですね。新入り一人に大人げなく本気じゃないですか雅さん」
聖が爽やかに言う。
どす黒い目をして。
「大事な仲間だからね」
「仲間、ねえ」
篠田がピクリと動いた。
手で大丈夫と示す。
「返してくれないかな」
「玲、連れてきて」
聖が呟くと、男は背後の扉を乱暴に開け、重たい荷物を引きずるように出てきた。
瑞希。
目隠しをされ、シャツと下着だけの姿。
それ以上に目につくのが、呼吸困難に近い過呼吸。
手足は震え、頭を絶えず振って。
「がッッ……く、うぅ……ふッ」
篠田が拳を握る。
「そんな怖い顔しないでくださいよ」
瑞希のそばに行った聖が、玲の注射器を手に取り構える。
「これ、二回打つと拒否反応を起こして昏睡しちゃうらしいです。そうだな……下半身不随つきとか」
「ナニが望み?」
吐き捨てるような質問に聖が止まる。
髪を掻き上げながら目を細めた。
「代わりになってくださいよ」
篠田が息を呑む。
「雅さん?」
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