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殺す勇気もない癖に13
冷たいビルの壁に額を付ける。
早く熱を奪ってくれ。
聖は息を静めようと目を瞑った。
内から熱さが込み上げる。
残像がまとわりつく。
ー馬鹿だね……ー
壁を殴る。
玲は無事かな。
あいつらは捕まったかな。
考えては消える。
あの笑みが掻き消す。
予定通りなら、今頃歌舞伎町の歴史は変わっていただろう。
それが、本望だったのか。
玲に持ちかけられた時は最高の選択肢に思えたのに。
類沢雅を貶めるには最高の。
「ぁああッッ……っく」
どうにもならないむず痒さに襲われる。
あの眼が。
あの唇が。
あの指が。
どこまでも掻き乱す。
どうしたらいい。
誰に問うわけでもなく目を凝らす。
まさか本当に受け入れるなんて。
あの非道な類沢雅が、まさか新入り一人のために人生を差し出すなんて。
二年前では考えられない。
中毒性はトップクラスの劇薬。
玲が実験にと拾ってきた不良が悶え苦しむのを聖は見た。
雅さん……あんた本当に人間?
深呼吸をして襟元を整える。
頭が痛む。
ずきずきと。
過去が雪崩となり頭の中を侵してる。
叫び声を上げながら。
両手で顔を包み、なぞる。
どんな表情をしていたか確かめるように。
「ここにいたんだ」
バッと声の主を探す。
聖は喉元を擦りながら彼を睨んだ。
「情報屋が何の用だ」
青年が無表情に近づく。
「圭吾」
名を呼ばれて立ち止まる。
「お得意様に提案があって」
「今じゃなきゃって話? あとにしてくんないかな」
足を踏み出した聖の背中を声が貫く。
「類沢雅を消したいなら協力する」
息が詰まった。
「なに……言ってんの」
圭吾はいつものように真っ直ぐに聖を見つめていた。
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