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殺す勇気もない癖に12
「ふ……なんか、ホッとしたっつーか。馬鹿ですね、俺」
「再起不能にしたかった?」
「ええ」
「僕を潰したかった?」
「はい」
クスリと笑い飛ばす。
「殺す勇気もない癖に」
聖は声が出なくなった。
瑞希の腰に腕を回し、バランスをとって立たせる。
まだ意識は戻らない、か。
「それが、大事ですか……命より」
「聖も昔は、前の名前の時はそうだったよ」
「やめてくださいよ」
振り払うように目を閉じる。
「昔なんて思い出したくもない」
羽生三兄弟が聖を囲む。
手を伸ばそうとした千夏が寸でのところで伏せた。
間隙おかずに頭上を凶器が舞った。
「俺に触んな」
類沢の前では見せた弱さが消える。
彼も地位ではシエラのホストに劣らないのだ。
両手に構えた釘。
「聖の相手は気をつけなよ」
類沢の忠告にみな道を開ける。
記憶が蘇った連中もいたのだろう。
聖を見て、後ろめたそうに下がる者もいた。
類沢は彼らと、一人で出ていく聖を眺めた。
かつての仲間を。
「いいんですか」
我円がそばに来る。
「まあね」
「雅氏らしくないですね」
「仲間には弱くてね。全く嫌になる」
片眉を上げた我円を置いて、出口に足を引き摺る。
何人も駆け寄って来たが、類沢は手を借りなかった。
瑞希を抱えたまま。
「ああ……頭が痛むね」
その何気ない一言にどれほどの思いが混ざりあっているのか、知るものは多分もういない。
篠田さえも。
「帰って休もうか……瑞希」
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