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殺す勇気もない癖に11
余りに無防備な笑みに全員が眼を疑ってしまう。
類沢は慎重に立ち上がった。
胸を張って、自信げに。
「なん……で」
玲が呆然と呟いた。
薬を用意した彼だからこそ、その効果の程は思い知っているから。
立てるはずがないから。
類沢は腕で汗を拭った。
「間に合ったよ。春哉」
我円が手を上げる。
「合図ですよ、皆さん」
それを聞いたホスト達が指を鳴らす。
「行くぞ、吟じい」
「腕が鳴るのう」
「それ死語だぜ」
ガアンっという衝撃と共に倉庫の扉が三つ共に外れた。
蹴りあげた足を身に引き付ける如月。
「さっすが紫苑~。カッコいい」
「黙って片付けるぞ、空斗」
沢山の足音が響く。
「みぃずき拐った悪人はどいつ?」
ナイフを舐めた紅乃木に男達が青ざめる。
「なんだ、屑ばっかじゃん」
「紅乃木さんに続けっ」
聖は辺りを見渡してよろめいた。
「くく……ははははっ」
「雅……さん?」
篠田が近づき、瑞希を担ぐ。
「おっ、おい」
声を上げた玲に刺すような回し蹴りが飛んだ。
風を切った踵が今度は玲の背中に勢いよく振り下ろされる。
「がっは」
革靴が地面に着く。
「これは申し訳ありません。気絶させて差し上げますつもりでしたのに」
「ややこしぃんだよ、伴……親父に似てきやがって」
同期の二人が向かい合う。
その傍らで、聖は類沢の前に立ち尽くしていた。
「なんで、平気なんですか……玲は容赦なかったはず」
「量も濃度も関係ない。これはね」
そう言って銀紙を見せる。
「抗体?」
「ズルしてごめんね」
そうはにかんだ類沢の頭を篠田が叩く。
「ヒヤヒヤさせんな」
「大丈夫って言ったでしょ。まあこれ即効性が弱いんだよ。キツかったのは本当」
叩いた手でくしゃくしゃに頭を撫でる。
「お前は凄いよ」
篠田はホスト達の指揮に行った。
去り際に瑞希を託して。
「聖」
最早一人になった青年。
「惜しかったね」
「あ、ああ」
ワックスで形どられた髪を乱す。
掻き毟って。
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