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どちらかなんて選べない04

 かたや大学生カップル。  かたや歌舞伎町を代表する二人。  こんな組み合わせで会話が成り立つだろうか。 「一度お店に伺おうと思っていたんですけど、関係者って行っちゃまずいのかなって」 「大歓迎ですよ」 「瑞希じゃなくてもシエラには沢山イイ男がいるしな」 「チーフ……」  この居心地の良さはなんなんだ。  河南を気遣ってか煙草を吸わない二人のお陰で、篠田のセンスの上品な香水の香りにさらに肩の力が抜ける。  類沢の指が触れるたびに厭になるほど反応してしまうことを除いては、結構この状況を楽しんでいる自分がいた。 「彼女は心配じゃないか?」  信号待ちで篠田がつぶやく。 「なにがですか」  河南は意識が宙にあったようで、伸びた声で応じる。 「客との関係」  片言で云う。  俺はさっきまでの喧嘩を思い出して、背筋を正した。 「実際のところ、どうなんですかね」  ギシ、と河南が体ごと後ろを向いた。  シートにしがみつき、類沢をじーっと見つめる。 「僕?」 「はははっ。雅に訊くか」  青になった信号の下を滑らかに曲がる。 「別に恋人なんて関係にはならないし」 「類沢さんて付き合っている人いらっしゃるんですか」  河南……  俺は窓の外に夢中になっている演技をいつやめるべきか測り損ねている。 「どう思う?」  あくまで余裕な態度の類沢にため息が漏れそうだ。 「んー……大事な人はいますよね」 「なんでわかるの」  真顔は嘘か本当か教えてくれない。 「だって類沢さん、恋してる眼してるじゃないですか」  車内を包んだ奇妙な風は、篠田の爆笑で吹き消された。 「あっははは、いいな。瑞希、面白い女を彼女にしてるな」  俺は座席に体育座りして顔を埋めていた。  なんてことをいってくれるんだ。  そっと隣を腕の隙間から覗く。  前を向き直った河南を見る類沢。  その眼は無言なのにも関わらず、強くナにかを伝えているように思われて、丁度よく空調の効いた車内なのに、俺はぞっとした。  蒼い瞳。  光を反射して紫に濡れる髪。  一瞬にして、類沢は手の届かない存在感を示した。  俺にちょっかいを出す男じゃなくて、誰もが完ぺきだと疑わないシエラのトップ。  類沢雅として。  それが何を意味していたのかなんて、先にもわからないだろう。  

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