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どちらかなんて選べない06

 篠田と類沢がそれぞれ螺旋階段の前に立つ。  白のスーツと藍色のコートが対照的に色を放つ。 「秘密基地ってのは嘘で、ここは夢の店なんだよね」  くすりと笑い、手すりに手を這わす。  透明なそれは、光を反射して水のように揺らめいた。 「理想のホストクラブを作りたいんだ」  まさしく、夢みたいな暖かい陽光が差し込む。  シャンデリアさえも陰に落としてしまうような光が。 「シエラは違うんですか」 「ああ。あそこは好い。けど始まった場所で終わる気はさらさらない。名義屋を片付けて、歌舞伎町に落ち着きが戻ったら、俺はいなくなる」 「そんな……」 「僕に譲るんだってさ」  涼しい顔した二人に困惑する。 「家みたいにね」 「そう早くもないがな。秋倉だけじゃない。裏にいるのは遥かに面倒な奴らだ。堺から進出してきやがった奴ら。それが終わったらな」  河南がおずおずと絨毯を歩く。  足に吸い付くような、それでいて砂のように離れるような。  篠田が拘り抜いた空間。 「なんで、今日連れてきたんですか?」 「雅の気紛れだ」  顎で示された類沢が苦笑する。 「春哉が河南ちゃん気に入ったからでしょ? 女の子入れるの初めてじゃない」 「そうなんですか」  河南が高い声で言う。  トンと一段上がり、腰を下ろした篠田がほほ笑む。 「ようこそ、オペラへ。お嬢様?」  かあっと熱くなる音が聞こえてくる。  チーフじゃなくホストとしての篠田の顔は、類沢とは色は違うものの逸らせない魅力に満ちていた。  二階は生活空間にしてあるようだ。  北欧に来ているような錯覚を覚えながら客室に踏み入る。 「きれい……」  テーブル、椅子。  壁にかかった絵。  レストランすら名前には劣る。  類沢の部屋に入った時も呆気にとられたが、此処はレベルが違う。 「どうぞ」  あの日、ワインを渡してくれた時と同じ言葉。  俺は受け取りながら、類沢の眼の奥の感情を読み損ねた。  鳥のさえずりが聞こえる。 「東京とは思えませんね」  河南の言うとおりだ。  なんて安らぐ。

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