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どちらかなんて選べない11

「悠さんとはいつから?」  そろそろ残りも少なくなってきた。  もちろん、俺は一杯で止まっているから殆ど類沢が飲んでいる。 「いつから? ああ、篠田が紹介してきたんだよね。どこで出会ったって言ってたかな……あの人は顔が広いから」 「政治家とか知り合いいたりするんですか」 「いるね」  半笑いで冗談交じりに訊いただけに、反応が思いつかなかった。  恐ろしい。  いや、むしろ水商売だからこそコネや裏は武器になるし、必要なんだろうか。  まだまだわからないことばかり。 「悠と鏡子さんの婚姻も見届けたらしい」 「ええっ」  あのデコボココンビともいえる夫婦。  どんな出逢いだったんだ。 「鏡子さんは、昔ホステスでね。悠より先に篠田に会った」 「またドラマチックですね」  最後の一杯を傾ける。  コンとテーブルにグラスを置いて、指を滑らせる。 「今の明るい鏡子さんを見ているとね、いろいろ過去になったんだなって」 「大変だったんですか?」 「今度本人に尋ねてみな」  それは自信ない。  空になった二つのグラスを器用に片手で持ち上げ、類沢はカウンターの奥に消える。  水音の後に出てきた類沢は、少しだけ酔って見えた。  珍しい。  いつもは絶対にないのに。 「流石、悠だよ……瑞希は水飲んでおいた方がいい」  ぽんとペットボトルを投げられる。  確かに後からアルコールが回ってくる。  冷たいそれが喉を伝う感触に癒される。  類沢はソファに戻らず、寝室に行ってしまった。  月明かりが揺れるリビングを見渡す。  随分ゆっくりと時間が流れていたみたいだ。  もうすぐ日付が変わる。  また仕事が始まる。  追いかけて寝室に入ると、類沢は机の前に立っていた。  引き出しを開けて。  瞬間、あの留守番の日を思い出す。  ざわっと鳥肌が立った。 「瑞希」  呼びかけられただけで、逆撫でされたようだ。  きっとそれは、類沢から放たれる空気の所為。 「開けた?」

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