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どちらかなんて選べない10
「特には……」
「そう」
俺は寝巻を無意識にいじる。
類沢は、なにを思って今日連れだしたんだろうか。
篠田は、なにを思ってあそこを見せたんだろうか。
聞きたいけど訊けない。
答えが予測できないから。
「あの」
声を出したところで類沢がぽんと頭をなでる。
「早く着替えな。良いワインがあるから」
一人になったところで頭に触れる。
やっぱり身長差はすごいなとか。
冷たい手だなとか。
そう誤魔化さないと顔が白くなってくれない。
また洗顔をしてから、リビングに向かった。
家具もそうだが、食器の拘りもあるんだろう。
透明なグラスの美しい曲線に紅いワインがすべるように流れるのを、ぽーっと見つめる。
すっと渡される頃には液体の跡が側面から消えている。
綺麗。
俺はグラスを光に透かした。
「ふっ……なんも仕込んでないよ?」
「あ、いえ! 別に疑ったりしてませんけど」
濡れた唇で優しく微笑む。
この笑みに女性は溺れるんだな。
長い睫毛と、芸術的な陰影にも。
シエラに借金をつくったりしなければ、一生見ることも会うこともなかった笑みなんだろうな。
上の空にそんなことを考える。
今更といえば今更。
「なんか、変な香り……」
「はははっ。やっぱり瑞希には早かったかな」
高いワインは飲みづらい。
大学の先輩がそういったのを思い出す。
「ちなみにいくらですか」
類沢はボトルを手にして首を傾げる。
「確か……百万近かったかなあ」
「はあ!?」
一本百万て。
ホストクラブじゃないんだぞ。
「どっから?」
「これは……悠かな」
闇医者の年収に興味がわいた。
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