108 / 341

どちらかなんて選べない14

 視線がぴったりと重なる。 「怒ってるじゃないですか……」 「そう見える?」  肩を抱いた手に力がこもる。 「その、何言っても言い訳かもしれませんけど」  俺は昨日から結局殆ど意見を云えていない。  今の空気しかチャンスはない。 「類沢さん、言ったじゃないですか。自分のイメージについて。会ったばかりの俺ですら、歌舞伎町№1ホストって印象なんだって……その時の類沢さんが、なんだか切なかったので……もっとその、類沢さんのことを知ったらちゃんと印象を表せるっていうか。もう何言ってんだ俺……まとまんないんですけど」  ギシ。  肩を抱いていた手が首筋にかかり、俺は押し倒されていた。  ソファについた手が支柱を軋ませる。 「るい、さわ……さん?」  タオルが落ちる。  お互いの鼻がつきそうな距離。 「今は?」 「え……」  ふっとほほ笑む。  それから真剣な眼が自分を捕えた。 「今は僕のことをどう思っているの」  流れた髪が鎖骨に模様づく。  髪の一本一本すら芸術みたいだ。  互いの息が聞こえる。 「今は……近寄りがたいっていうか、近づいちゃいけないって」  意味を尋ねるような間。 「その、俺はやっぱり河南の彼氏で、大学生で、ホストとは縁の無かった人生で……だから、類沢さんとは……」  いつでも離れられる距離を保ちたい。  すっと出てきた感情だった。  それから目が覚めた気分に襲われる。  そうか。  自分はそう思っていたのかと。 「まだホストは苦手?」  初めて会ったときに言ったことを指しているんだろうか。 「シエラのメンバーは素敵ですし、チーフにほかの店の凄い人たちも尊敬します。でも……俺の居場所って感じはなくて」  ここも。  この家も。  そう、思わないといけなくて。  最近ずっと心に引っかかっていたこと。  みんなとは、すぐに離れる仲なんだってこと。  保たなければいけない距離があること。  なにより、河南を裏切りたくないこと。  全部がないまぜになって。  最後に残ったのは乾いた関係。  そんなんじゃないはずなのに。  やるせなさ。

ともだちにシェアしよう!