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どちらかなんて選べない15
逸らした視線を戻される。
「それだけ?」
ああ。
この人は、俺の心なんてお見通しなんだろう。
誤魔化せない眼。
逃げられない体勢。
「そんな真っ赤な顔して」
ほら。
俺は器用じゃない。
頬を指が這うだけで、ざわざわと全身が騒ぎ出す。
震える手で、首筋に移動しかけた類沢の指を止める。
「これ以上……惑わせないで、ください」
声も震えている。
「俺は、やなんです……河南を悲しませたくないん」
それ以上云う自由はなかった。
唇が重なり、くっと顎を持ち上げられる。
両手で肩を掴んでも、力で勝つはずがない。
舌先に翻弄されて、喉を伝う液に身をよじらせる。
「はッ……んむ」
片足がソファから落ちる。
冷たい床に、体の熱さを思い知らされた。
「瑞希は嘘が下手だよね」
俺の唇を指でなぞりながら類沢が囁く。
力がぬけてだらしなく開いた唇を。
「本当は怖がりなだけ」
小さく首を振る。
「ち、がう……」
「だったら耐えてみせなよ」
両手で顔を包まれる。
もう蒼い眼しか見えない。
「借金を返し終わるまで、壊れずにいれるかな?」
すっと離れた類沢は、煙草をくわえて笑った。
その笑みは今までで一番愉しそうで、まるで悪魔のようだった。
「シエラへようこそ、お嬢様」
お迎え組の列の端。
俺を見つけた一夜が声をかける。
千夏のスーツだ。
当の本人は今日も先日の団体客に囲まれている。
「元気ないな……昨日はゆっくり休めたか?」
「全然っていうか……」
そうだよ。
昨日は休日だったんだよ。
なんでもう満身創痍なんだ。
「瑞希さん、類沢さんと喧嘩でもしたんですか」
三嗣のセリフにびくっと肩が跳ねる。
「な、なんで……?」
「なんとなくですけど、当たりだったみたいですね」
「お前、年上にカマかけるとか好い度胸してんな」
一夜が睨みつける。
「いやだってその……変じゃん」
周りからは見えない位置で一夜が小突く。
だが、俺はもう自分の意識に入っていた。
本当に、どうしたらいいんだろう。
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