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どちらかなんて選べない18
電話が鳴った。
正確には、携帯が震えた。
俺は類沢にアイコンタクトして、大丈夫だと伝える。
だが、彼は離れなかった。
お互い眼を合わせたまま、電話に出る。
「……もしもし?」
「あっ、瑞希出たよー。ほら」
聞き覚えのある声。
「貸せっ。おい、瑞希?」
誰だっけ。
「もしもし」
俺は弱弱しくもう一度答える。
「てめぇどこ行っちゃったの? 毎日毎日拓がうるせえんだよ。瑞希がいねー、瑞希がいねーって」
「オレじゃねえだろ。忍が心配してるくせによ」
「うるせぇっ」
あ、思い出した。
なんで忘れていたかもわからないほど強烈な隣人を。
「忍に拓か」
「なんだ? 忘れてたとかいわねーよな」
「ごめん……久しぶりだから」
携帯を持ち代える。
「久しぶりはこっちの台詞だっつの。引っ越しのそぶりも無かったのによ」
「忍、もうちょっと優しく喋れよ。瑞希怖がるだろ」
「うっせ。黙ってろ」
相変わらずだなあ。
俺はにやけてしまう。
「代わりに入った奴らはなんか変な兄弟だしよ。てめぇがホストやってるって云うし」
「兄弟?」
丁度目が合った類沢の表情に直感が走った。
まさか。
俺の出て行った部屋にいるのって。
「は、にゅう……とか言ったりする? その兄弟」
一瞬の間。
「なんでわかったんだよ。マジでホストやってんのか。知り合いか?」
指から力が抜ける。
耳元から声が遠ざかっていく。
もう忍の言葉は届かなかった。
目の前の人物に訊きたいことがある。
無意識に電源ボタンを押した。
「どういう……ことですか」
類沢は表情を変えない。
「なんで、一夜たちが俺の部屋に住んでんすか」
「なんでだと思う?」
「知るわけないじゃないですかっ」
質問を質問で返されるじれったさ。
「意味わかんない……わかんないですよ」
「じゃあ、直接本人たちに説明してもらおう」
類沢は俺の横を通り過ぎて、玄関を出て行った。
反応する間もなく。
「え?」
急いで後を追う。
ヘッドライトが道を照らした。
運転席に類沢が乗っている。
助手席の窓が降りる。
「どこ行くん、ですか」
「さっきの掛けてきた連中がいる場所」
俺は茫然とドアを開けた。
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