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俺は戦力外ですか15

 コトン。  カップが置かれる。  今までずっと持っていたか。  秋倉は思い出そうとするが出来なかった。 「それでいいでしょうか」 「宮内は都内の大学に通う大学生で八人集にも顔が割れている。厄介な商品にならないか」  返事がない。  不審に思って鵜亥を見ると、彼は口を押えて笑っていた。  可笑しくて仕方がないというように。  余りに感情を見せてこなかったせいでそんな当たり前の行動をする血の通った人間というのに今更気づかされた気分だ。 「ああ、失礼。御冗談ですよね」 「オレらに仕事の心配をする客はあんたぐらいやで」  この明るい言葉と裏腹の空気の重圧感。  いい加減銃はしまってくれないだろうか。 「あ、ああ」 「まさかこの少年にも何か?」  何か?  何を指しているのだろうか。  鵜亥の眼が細くなる。 「いや、特には」  まあ、類沢を貶める道具程度にしか考えていなかったしな。  だが、秋倉の頭には曇りが残った。  あの巧という男の話が被る。  海外には日本にいる限り想像つかないほどえげつない組織がある。  そこに鵜亥は高額で少年を売っている。  それは常識だ。  大体秋倉自身も同じルートを使ったことはある。  偽造パスに国内での戸籍末梢。  人脈の使いようによっては容易いだろう。  大阪に長く足を着けていた鵜亥にとっては自分の庭のように君臨していたのかもしれない。  彼に手に入らない商品はない。  巧以外。  確か、フランだったか。  あの情報屋は。  彼がいなければ巧も同じように元からいなかった存在になって……  なにを考えているのか。  秋倉は自分を嘲笑する。 「どうしました?」 「別に」 「では、これで失礼しますね」 「さいなら」  先に店を出て行った汐野の背中を確認して、鵜亥が振り返る。  ネクタイを正して。  にこりと。  なんでだろうな。  初夏というのにこの寒気は。 「またお会いしましょう」  自動扉が閉まる。  すぐに小木が出てきた。  キョロキョロと薄暗い外を見渡す。  丁度車が出て行ったところで、残念そうに肩を落とす。  それから思い出したように秋倉の肩に手を置いた。 「秋倉さん」 「お前、今更何しに出てきた」

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