160 / 341
俺は戦力外ですか16
ブラウンに染めた目元までの髪が揺れる。
以前までは黒髪黒スーツだったというのに。
首元の三本線の傷跡は白いシャツの襟で器用に隠している。
秋倉の目線に気づいたのか小木は苦く微笑んだ。
「やっと二十三号を取り戻すんですか」
「お前がスカウトしてきたんだったな。腕折ってよ」
目を細めて首筋をなぞる。
自身の爪で、傷跡を抉るように。
「懐かしい話です」
「あれから何年だ」
「十七年、ですかね」
煙草を取り出した秋倉に火を差し出す。
慣れた動作で火を点け、白い煙を吐いた。
「よく鵜亥さんに連絡とれましたね」
「ああ。たまたまある仕事で絡んでな。今日が初顔合わせだったが……」
大きく深呼吸をして肩の力を抜く。
随分凝ってる。
「あだ名の通りの奴だよ」
「スズメバチ、ですか。いやあ……あの方は素晴らしいですよ」
スターに憧れる少年のような眼をして。
「戻る気はないのか」
「二十三号にはもう一回会いたいですけどね。歌舞伎町№1ホストになってるらしいじゃないですか。前に偶然見かけましたけど、変わらないね。あの顔は」
後半は独り言のように。
あの頃の類沢は組員全員に目をつけられる美少年だった。
ふっと息が洩れる。
あの頃?
今もそうだ。
淀まず穢れずそのままに成長してきた。
「そのライバルホストは良いんですか」
「雛谷のことか」
「まあ……二十二号でしたっけ」
「相変わらず番号でしか覚えないな」
「いいじゃないですか。こう、番号で呼ぶ方が背徳感があって」
変態が。
声に出さずに毒づく。
そういう自分も言えたものではないが。
自分が連れてきたからと一番に類沢に手を出した小木は、一週間は動けなくなるほど容赦なかったという。
非道といえばこいつのことだ。
逃げ出そうとした少年の一人をダルマにしようとして止めさせたことがある。
ダルマ。
逃げられぬよう脚を切り落とした人形。
言葉通り死ぬまで性処理として扱われる。
こいつが元いた場所はどれほど凄惨だったか。
「秋倉さん」
「なんだ」
「あまり固執すると、足元掬われますよ」
「わかってるよ」
「わかってませんよ」
朗らかに小木が笑う。
一切感情を含めない乾いた笑みで。
ともだちにシェアしよう!