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俺は戦力外ですか26

 類沢は片眉を上げた。 「街自体が厄介事になりそうなのに、これ以上のことがある?」 「ああ。少なくとも俺はそう思ってる。シエラの危機も街の危機に等しいからな」  蓮花がヒュウっと口笛を吹いた。  それを見て素っ気なく答える。 「瑞希の件?」 「お前はあいつをどうしたいんだ」  責めるように。 「手に入れるならさっさとやって、店じゃなくて家で飼え」 「結論を急ぎすぎじゃない、春哉」  蓮花が鞭を机に置いて歩み寄る。  篠田の首に腕をかけ、妖しく体をくねらせる。 「でも、どうせだからここで言っちゃった方がお互いの為かしら」 「やめろ、蓮花」 「僕のライバル宣言ならいつでもどうぞ?」  軽く云った言葉に二人が目を見開く。  それがちょっと面白かった。 「裏で手を回して瑞希の借金返済を遅らせて、このままだと僕の地位が危ないとか警告してさ。わかりやすすぎると思うんだけど。違う?」 「やだ。私は別にライバルなんて思ってないわよ。ただ、瑞希が可愛いから客以上の交流でもしようかしらって」 「黙ってろ」  二度目の制止にやっと挑発を止める。  口を曲げて。  どちらが年上か。  類沢はくっと口の端を持ち上げた。 「とにかくだ。今回の堺の連中とのいざこざの間は、店に集中して貰いたいんだ」 「そんなに営業に支障をきたしてる?」 「売上はむしろ伸びてるがな。アフターに一切行ってないだろ」 「まあね」 「そのうち太客何人か失うぞ」 「それはどうだろ」  どちらも一歩も譲らない。  オーナーとホストの一騎打ち。  同等の意見のぶつけ合い。  蓮花は小指を甘噛みして眺めていた。  篠田が頭を掻いて眉をしかめた。 「もう一ヶ月だ。あいつも一人のホストとして働き始める。面白がっている期間は終わったから俺も口を出させてもらう」 「今まで我慢してたようには見えないけど」 「よく言う」 「オペラにまで連れていってさ」 「あれは気まぐれだ」 「へえ?」 「あのさ、おふたりさん」  蓮花が指で玄関を示し遠慮がちに口を挟む。 「雅の車のエンジン音がしてるんだけど」  その方向を振り返る。  蓮花は従兄弟である篠田の影響もあり、車に精通している。  歌舞伎町のホストの車は暗記しており、そのエンジン音も大抵聞き分けられるのだ。  確かに微かに聞こえる。  瑞希が?  まさか。  じゃあ、誰が。

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