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最悪の褒め言葉です12
悠はすぐに忍の傍らに腰を下ろして、手首を持ち上げ脈をとると、ポケットから出したライトで忍の瞳孔を確認した。
「どう?」
類沢の問いかけに躊躇うように唾を飲む。
拓は気が気じゃなく、悠のそばにすがるように座った。
一心に忍を見つめて。
「ただの気絶じゃない。過労とかの類いでもない。昏睡に陥っている可能性がある。すぐに運ぶぞ。知り合いの大病院に連れていく。精密検査と一刻も早い対処が必要だ」
一息にそう言うと、悠はどこかに電話を掛けて類沢に車を回してくるよう指示した。
「昏睡……」
拓が呆然と呟く。
「なん……で?」
俺は唇を噛み締めた。
信じたくなかった。
認めたくなかった。
こんなタイミングの良すぎる不幸なんてないと思いたかった。
鵜亥が今では死神にすら思える。
現実じゃない。
そんな気がするのは、脳が逃げているだけなのかもしれない。
「忍、前に病院で精密検査受けてるんすよ」
悠が顔を上げた。
「その結果は?」
「問題ない……って」
「口だけで?」
つまり、証拠の有無。
拓は戦慄きながら首を縦に振った。
「けどっ……あいつが嘘なん、て」
「患者ってのは一番嘘つきな状態の代名詞だと俺は思っている」
悠の乾いた声が現状を知らしめるように強く鼓膜を揺らした。
「とにかく病院に急ごう」
「はい……」
拓の顔から表情が消えていた。
救急に搬送され十五分。
俺は拓と二人で待合室にいた。
悠と類沢は医者と話している。
相席は許さなかった。
自販機の重厚な振動音が響くなか、お互い口を開かないまま時間だけが過ぎる。
その間頭を占めていたのは鵜亥の話だけだった。
寒い。
全身が鳥肌たっている。
呼吸が聞こえる重い空気。
拓はずっと顔を手で覆って俯いていた。
その膝が震えてる。
俺は、どうすりゃいい。
何も出来ずに。
ただ……時間だけ。
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