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最悪の褒め言葉です15

 扉の向こうで軽々しい声が答える。 「逢引タイムは二分までですよー。紫苑さんの客、ヘルプ追いついてないんですからね」  急かしているのかふざけているのかリズミカルにノックをして足音が去っていく。 「……紫野」 「恵介が大変みたいだから紫苑はもう戻りな~? また経過は教えるから、さ」 「ああ。期待はしないが」  出ていく紫苑の背中を雛谷は指ピストルでバンと撃った。  ふっと煙を吹く仕草までセットで。 「キャッスルは難攻不落の城だよ? 絶対他の奴らに崩されたりなんかさせない。ノブリン一人だってそう」  その眼は憂いに揺れていた。 「恵介だって可愛がったはずなんだけどね」  忍の病室で、拓は一人にさせてもらった。  白すぎる空間に体が拒否反応を示す。  なんでここにいるのかを見失う色だ。  悪趣味だ。  拓は母が入院してた頃を思い出した。  あのときもこの白さが嫌で花とか、ポスターとかとにかく色があるものを持ってきた。 「お前もたまに来てくれたよな……何年前になるんだ、アレ」 「六年だろ?」  忍が眼をゆっくり開いた。  抱き締めたくなる笑みを浮かべて。 「アホ面」 「うるさいな……いきなりぶっ倒れたからビビったんだよ」 「寝ても覚めてもてめぇがいるな」  そんな一言が心臓まで貫いた。  拓はぐっと涙を堪える。  椅子をベッドに近づけて、忍の手を握った。  両手で優しく。  細かった。  折れそうだった。  冷たかった。  凍りそうだった。  今にも死ぬんじゃないか。  そんな不安に襲われた。 「なに泣いてんだよ、ばーか」  気づかないうちにシーツに沢山の水玉模様をつくっていた。  ボタボタと。  あり得ない勢いで。  声を出そうとして、喉が絞まった。  握った手に額を付けて俯く。 「なんでだよ忍……なんで言ってくれなかったんだよ。全部忍の口から聞きたかったよオレは。毎日一緒に居たのに……なんも知らなかったとか最低すぎんだろーが」 「てめぇは早とちりすっからなぁ……云ったら直ぐに銀行襲うか心中してただろ?」 「冗談言ってる場合じゃねーだろ……っ」  忍が弱々しく握り返す。 「拓」 「ん?」  ベッドが軋む。  忍が少しだけこちらを向いた。  枕に横顔を乗せて、眼にかかる髪を払いもせずに拓を見つめる。

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