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最悪の褒め言葉です16

 その瞳はいつもの寒気がするほどのあの殺気を纏っていないが、そのせいか恐ろしく脆いものに見えた。 「スゲー眠ぃんだ……けど寝たくねーの。さっき悪夢見てたんだ。今までで一番狂ってる夢。てめぇも出てた、あんま覚えてねーけど」 「オレってしょっちゅうお前の夢に出るな」 「そろそろ出演料払えよ」 「オレがかよ」 「ああ、てめぇがだ」  ふっと笑う。  拓は鼻を啜って明るく尋ねた。 「何が良い? 焼き肉にステーキにハンバーグの肉ハーレムか? 酒池肉林みたいな」 「酒池肉林はそういう意味じゃねーよ」 「だっけ?」 「バカだな……拓は」  瞼が下がる。  拓は言い様のない焦りで忍にしがみついた。  けれどその肩を忍が突き放す。  眼を見開いた拓に笑いかけた。 「まだ死なねえから。な?」 「お前らしくねぇんだよ……強がりやがって……」  廊下に出てきた拓がそう呟いた。  俺は類沢と一緒に近づく。 「目、覚ましたの?」 「ああ、普通に会話した」  その眼の赤さを見れば嘘だとわかる。  だが触れることは許されない気がした。 「今日は泊まっていく?」  類沢の提案に拓は頷いた。 「篠田に伝えとくから店は休んで良いよ。傍にいたいでしょ」 「クビじゃないっすか」 「はははっ、拓みたいな人材を篠田が手放すわけないよ。安心して休みな」  もちろん、休むの意味は違うが。  拓が頭を下げた。 「ありがとうございます!」  けれど、俺は言いたいことでモヤモヤと苦しんでいた。  なんで、拓は訊かないんだ。  手術のことを。  費用のことを。

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