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最悪の褒め言葉です21

「今日は随分怖い顔ね。そんなんじゃお客来ないわよ」  席に着くや否やそう言われ、俺は焦って自分の眉間に触れる。  蓮花は静かに笑った。 「そう。ソコ、皺寄りすぎ」 「すみません……」  足を組みながら彼女は俺に向き直る。 「なにかあったの?」  その脳内で俺の知らない昨日の篠田と類沢との会話が再生されていることを俺はわからなかった。 「まあ、友人が色々大変で……俺まで混乱しちゃって」  グラスに酒を注ぎながら目線を泳がせる。  その手に蓮花のが重なった。  どきっとして手を止めると彼女の黄色い瞳が俺をじっと捕えた。  まただ。  栗鷹診療所で射すくめられたこの瞳。  類沢とはまた違う。  女性にしかない不思議な迫力。 「瑞希」 「は、はい」  紅い唇が緩慢に開く。 「私は貴方が好きよ」 「えっ」  予想外の告白に戸惑う。  どう反応したらいいのかわからない。 「貴方の力になりたい。何でも相談して」  こんなに下手に出てくる彼女を初めて見たせいか余計に頭の中がおかしくなる。  香水の甘い香りに惑わされそうで。  相談。  相談、か。  確かに誰かに縋りたい。  けど、蓮花に言って何を求める。  忍の病気まで背負ってもらうのか。  客に。  数百万の費用を払ってもらうのか。  俺の借金を気遣う蓮花にそっちまで。  ぐるぐる。  大体彼女の親切を利用することになるんじゃないか。  好意を。  すっと蓮花が身を引く。  悩ましげにまつ毛を伏せて。 「ごめんなさいね。いきなり言われても困るわよね」 「いえ……凄く嬉しいんです。嬉しいからこそ、なんか……俺の都合でどうこう言いたくなくて」  ふっと蓮花がほほ笑む。  それから俺の肩に手をかけた。 「貴方って本当にホストらしくないわね」 「だ……めですか?」 「んーん。だから好きよ」  何度も言わないでほしい。  心臓に悪い。  俺は河南を浮かべながら言いようのない罪悪を感じていた。  体の相性どうこう言っていた蓮花が突然こんな態度になっているのだから戸惑うのも当たり前だ。  俺は自分を納得させる。

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