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最悪の褒め言葉です24

「類沢さんにしか頼めないっていうか……凄い勝手なのはわかってます」 「ははっ。本当にわかってる? スーツを買ったのとは訳が違うんだよ。確かに僕なら数千万くらいなら出せるだろうけど、瑞希は僕をなにか勘違いしてない? 瑞希にとっての都合のいい保護者じゃない。足長おじさんでもないんだよ」 「わかってます! でも」 「でも? その額をあとで瑞希は支払えるの? 友人の為に保証人になるのと同じだよ」  肩に手が当たったと思うと俺は押し倒されていた。  ソファの固い感触が背中を撫ぜる。  掴まれた肩に痛みが走る。  煙草の香りが恐怖を呼び起こさせる。 「類沢……さん」  ハラリと長い髪が俺の頬に当たる。  類沢の目は鋭く冷たかった。 「甘いよ」  その一言が俺の心の底に重く突き刺さる。 「あの日晃のルイを割った時となんにも変らない。謝れば許してもらえる。お願いすれば聞いてくれる。それだけで社会は回ってない。二十歳の瑞希に僕は甘やかしすぎたかもしれない。そろそろ現実を知ったほうがいい。そんなに簡単にことは運ばない」  そこには、俺の知らない辛い暗い世界を通ってきた気迫があった。  一言一言が俺の、確かになんにもわかっていない甘すぎた考えを貫く。  身動きできない状況に冷や汗と心臓の動機が止まらない。 「けど俺……どうしたらいいかわからなくて」  上司の顔の類沢に何を言ったらいいんだろう。  俺はどこかで妄想していたのかもしれない。  優しい類沢さんなら頷いてくれるんじゃないかって。  でも、そのあとのことも何も考えてなかった。  ただ焦りだけが先行して。  逆の立場だったら?  俺も怒ったかもしれない。  かたかたと体が震えている。  それに気づいた類沢が手の力を緩めた。  肩にじんじんと痛みが残る。 「明日、医者がこれからのことを話してくれる。それを聞いてから、ちゃんと拓と話してから、どうするか決めなよ」  身を起こして座りなおした類沢がまた煙草を咥える。  自分を落ち着かせるかのように。 「一人で悩んで一人で決めた決断は大抵最善じゃない。親友なら猶更よく話し合ったほうがいい」 「……はい」  俺は肘をついてゆっくり起き上がる。  不甲斐ない。  やるせない。  穴があったら入りたい。

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