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最悪の褒め言葉です23
家に着いて夕食と風呂を済ませてからソファに落ち着く。
俺は何を訊こうか考えすぎてもうよくわからなくなってきていた。
髪を乾かした類沢が洗面所から現れる。
「古城拓のことなんだけどさ」
「ええっ!」
「え? そんなに驚く?」
些か怯んだ類沢だが、俺のほうが百倍驚いた。
なんでそっちから振るんだ。
その話題を。
「な、んですか」
「明日の昼、主治医が親類と話し合いをしたいって言ってたんだけど、岸本忍の唯一の親族の母親の行方がわからなくなっているらしいんだよね。だから代わりに僕と拓が代表として呼ばれてるんだけど、瑞希も同行する?」
「したいです」
決まっている。
「よかった。もう一人連れて行きますってもう医者に伝えてあるんだよね」
俺に確認する意味!
少し理不尽を感じたが、おそらく俺がそう答えるんだと踏んでいたんだろう。
まあ、そりゃそうだし。
類沢が隣に座る。
「あの、るいすぁ……類沢さん」
「そこ噛む?」
「すみません……なんかもう頭の中ぐちゃぐちゃで」
俺はソファの上で体育座りして深呼吸をした。
「忍の病気のことなんですけど」
「うん」
「俺色々知らないことばっかで、調べてみても大体にしかわかんなかったんですけど……その、手術が必要になってくるじゃないですか。で、さっき類沢さんも言った通り忍には親族がいないんで、生体肝移植じゃなくて脳死肝移植になるじゃないですか」
「調べたね」
「はい。それで……その、手術もですし医者の派遣もですし結構、凄いお金がかかるじゃないですか。数百万から数千万。その前段階で適合不適合もありますけど、結局治療費全体でいうとかなりになるんですよね……それで、忍も拓も保険が効くって言っても貯金とかも全然足んなくて……」
もごもごと。
だってそうだ。
お金の話なんて誰もが気まずいに決まっている。
類沢は煙草に火を点けて吸いながら聞いていたが、俺の言葉が途切れたので此方を向いた。
「それで? 僕に出してほしいってこと? 治療費」
ぐさっときた。
なんだろ。
すっごい悪いことしてしまったみたいな気分に陥る。
俺は微かに頷いた。
呆れがちに息を吐くのが聞こえた。
灰皿に吸殻を押し付ける。
心臓がバクバク鳴っている。
先生に怒られる前の生徒のように俺は委縮した。
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