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いくら積んでもあげない06
開店まで十分を切った歌舞伎町の頂点に立つホストクラブ、シエラ。
そこで今、ホスト全員が緊張にピリピリとしていた。
「三嗣」
「なに、いち兄」
グラスの整理をしていた三嗣を一夜が呼び寄せる。
「今夜お前の客、何人入る?」
「え? 一応八人は来るはず……」
「じゃあ、それ以外の時間は千夏のヘルプに行け」
三嗣の目が変わる。
なぜか。
羽生三兄弟は決して互いのヘルプに入らないことを信条にしてきたのだ。
三人がライバル。
もちろん千夏は上位競争に位置してはいるが、どんなときでも三人は違うテーブルに付くようにしていた。
それが長男の命令で破られたのだ。
事情は全員が察している。
「……類沢さん、出ないの?」
「ああ。だから類沢さんの派閥が交替でヘルプに入ることになった。俺もだ」
「なんでおれが千兄の」
「人が足りないんだ、わかるだろ」
その一言に口をつぐむ。
類沢一人が対応してきた十数人の客。
そのそれぞれにNo.以下の人間が二人ずつ割かれる。
更には異例だがVIPの数人には篠田が付くことが決まったのだ。
先の会議を思い出して一夜と三嗣は目を見合わせた。
「……瑞希さん、帰ってくるよね」
「当たり前だろ。類沢さんだぞ。だけど……相手はホストじゃないんだよな」
語尾が淀む。
三嗣も顔を曇らせた。
「いくら親友を助けるからって、自分が身を危険に晒したら意味ないって」
「それが瑞希の選択理由になかったんだろ。俺らとか店より、大学生瑞希の比重がまだでかいってことだ。お前もわかっちゃいるだろ? あの隣人は悪いやつじゃない」
何度か話した岸本忍を思い出す。
だが三嗣は不満げだった。
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