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いくら積んでもあげない16
ギキッ。
車のブレーキ音が鼓膜に轟く。
四つのドアが同時に開かれ、四人は車から降り立った。
目の前のビルを見上げて、類沢が目を細める。
「シャドウの情報だとここらしいな」
吟が呟く。
誰もが無言で微かに頷いた。
その中で愛が独り言のように付け加える。
「本拠は別のはずですが……」
七階立ての灰色の建物に近づく。
「鵜亥は東京にいくつ支所を持ってるの」
「知っている限りでは三つですね」
「意外と少ないね」
業界事情など全くわからない拓だけが首を傾げる。
「ここに、瑞希がいるんすよね」
拳を握りしめながら。
そんな拓の肩を吟がぽんと叩いた。
「冷静になれ。感情なんぞ、敵の思惑にはまるだけの邪魔物だからな」
自分より背の低い吟にまだ慣れていない。
「は……はい!」
「入るよ」
類沢の一言に全員が動く。
「いらっしゃいまーせー!」
自動ドアが開いた空間に両手を広げて歓迎する黒スーツの男。
小ばかにするような口調に足が止まる。
「ふ……なんてなー。あんさんらやろ。シエラご一行」
「瑞希は?」
「おほっ。一言目にそれかいな。悪い悪い。おれの接客がなってないんわよお知っとる。とりあえず、案内せなあかんねけど……」
黙っているだけで類沢の怒りがひしひしと伝わってくる拓が代わりに進み出る。
「早く案内してくださいっ」
「鵜亥はいるの?」
それにかぶせて質問をする類沢にぎょっとする。
男はへらへらと笑いながら両手を下げた。
「今調教中らしいで」
止める間もなく類沢が足を踏み出す。
しかし、その目前の床に銃弾が突き刺さった。
後から銃声が木霊する。
銃を構えた男が撃鉄を下ろす。
「せやから……あんさんらには取引をせな」
「何の話?」
苛ただしげに体勢を戻す類沢に、違う声が降りかかった。
「前回の続きと行こうか」
脇から現れた影にうんざりとした空気と緊張が漂う。
初めて見る顔に自分以外が反応している訳が拓にはまたもわからなかった。
どしどしと足音を立てながら近づく巨体。
聊か以前よりやつれたかもしれない。
それでも図々しい姿は変わっていない。
「……お久しぶりです。妙に手回しがいいと思ったら貴方まで関わっていたんですね、秋倉真。キャッスルの内通者はそちらを通じていたんでしょう?」
「まあ、そういうことだ」
秋倉は静かに答えた。
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