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いくら積んでもあげない19

 煙が漂いきな臭さに包まれる。  ガタリと音がして、拓が脚から崩れた。 「は?……ははは、マジか」  血の吹き出る太腿を押さえる拓に、類沢が表情を失う。  すぐに二発目が響いた。  類沢の髪が舞った。 「……ほんま、うるさい奴等」  耳元を掠めた銃弾に、動きが止まる。  吟は迎撃をしなかった。 「秋倉はんも遊びすぎやで。さっさと拉致らんから勘づかれる」 「……お前」  まだ皆が動けないうちに違う銃に持ち替える汐野。  言い聞かせるように優しく呟いた。 「逃げてもええけど、町中でもおれは撃つで」 「サイレンサー付きだからと図にのりおって」 「黙れや、死にぞこないジジイ」  汐野が銃で床を示す。  ひざまずけと。  その意を知りつつ、類沢はただ秋倉を見ていた。  蒼い瞳で。  ただ、静かに。  だが秋倉には「失望した」と耳元で言われた気がした。  連れてこられた日の、少年の類沢の眼とそっくりだった。  控えていた男たちが出てくる。  始めに類沢を、それから拓、吟を捕らえる。  しかし、愛の元に向かう者達を吟と拓がとどめた。  怪我をした足を気にもとめずに、男の足にしがみつく。  言葉はなかった。  だが、愛は自分の役割を理解し、駆けだした。  その足音に急いで振り向いた汐野だが、すでに愛の背中はドアの向こうに消えていた。  部下二人に追わせて、銃をしまう。 「鵜亥はんには裏切りもんが多いの」  その言葉の意味を知る者はその空間にはいなかった。  しかし、類沢だけは憐れむように汐野を見下ろした。 「全員おれが始末するけど」  視線に答えるように類沢の襟首を掴み上げ、吐き捨てた。  最初にその知らせを受け取ったのは、丁度二人組の客を出迎えその腰に手を回した一夜だった。 「篠田さんを呼んでくれ」  肩に力強く置かれた手に、足を止めると見たことの無い愛の顔がそこにあった。 「お前一人で帰ってくるか、普通」  白スーツ姿の篠田の登場に客がざわめく。  騒ぎを聞きつけた千夏やアカの補助でその場を制し、篠田と愛だけにした。 「鵜亥の連中は話が通じないだろ」 「何を落ち着いてるんです? 相手は銃で拉致を……」 「お前の知らせよりも先にうちの有能な№1が手を打ってる」  携帯を取り出しながら言う篠田に、愛は呆然と立ち尽くした。

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