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いくら積んでもあげない20

「この状況を理解してないんですか、恐れてたことが起きているというのに」 「お前がよく言っていたうちの破滅か? 宮内瑞希のために雅が自滅するとか」 「チーフの貴方が一番わかっていたはずだ!」  歩き始めた篠田に早足で迫りながら愛が怒鳴る。 「相手はホストの事情なんて気にも留めない。現に古城拓は撃たれたんですよ? 相手の目的が類沢雅のみならば吟さんすらも殺されかねない」 「自分の組織のことを何今更驚いてるんだ」  ダンッと篠田の前に飛び出して道を遮る。 「お言葉ですが」 「うるさい、どけ」  自分の肩を押しやる篠田の力の強さに、愛は眼をみはった。  そしてそのまま、群衆の向こうに消えていく足音を聞きながら数秒立ちすくんでしまった。  肩が、熱い。  手形でも残っているんじゃないか。  ふっと愛は口元を歪めて、踵を返した。  周りの視線など気にせずに駆ける。  追いついた篠田の隣に、息を切らしながら並ぶ。  篠田はどこかに電話をしていた。 「そうか。始まったか。終わったら結果と経過を連絡してくれ、悠。悪いな、手間かけて」  シエラお抱えの闇医者か。  電話を切った篠田がこちらを一瞬も見ずに言う。 「泣いて店に戻ると思っていたが」 「っ……その方がよかったですか」 「お前はつくづくあいつに似ている」  カチンッとライターの音が響いた。  煙草の煙が鼻を掠める。  この柄、確か類沢も同じものを吸っていた。  鵜亥と汐野の関係のように特異な二人だ。 「ふー……東京の本拠はどこだ」 「鵜亥さんのですか」 「それ以外にどこを聞くと思ってる」  駐車場に辿り着き、愛車の鍵を開ける。  運転席に乗り込んだ篠田が手を伸ばして助手席を開いた。  乗れ、と。  そういえば自分の愛車はどうなっただろう。  キーも挿しっぱなしで。  それこそ今更だ。  乗り込むと同時に車が発進する。 「拓は、瑞希はいないと言ったんだったな」 「ええ。秋倉さんと汐野が出迎えたということは、そこには鵜亥さん自身もいないということですから。彼の目的が宮内瑞希であったなら、傍においているはずですからね」 「何でまた瑞希に眼つけるんだろうな」 「恐らく、似ているからでしょう」 「誰に」  そこで口が滑ったのを悟り、更にもう手遅れだとわかりつつ口を塞ぐ愛。  信号で止まったのを機に、篠田が真っすぐ愛を見た。 「誰にだ」

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