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どんな手でも使いますよ05

「戒、ですか。確かにこちらには三年程前より入りました戒という男はおりますが……巧という名前を耳にしたことはございませんね」  オールバックの銀髪を揺らしながら店内のある一点を見る。  奥のテーブルに、三人のホストが見えた。  どれが目的の人物かはわからない。 「つまり瑞希氏を取り戻すが為に、戒を連れ出したいと。そうおっしゃりたいのでしょうか」 「そうだ」  簡潔だ。  故に、疑問が残る。 「妙ですね。この時間のブランクに、巧という青年本人ではなく、ホストになって一か月の瑞希氏を捕らえたというのはどういうことでしょう。その交換条件に青年が要求されているのでしたら、堺で瑞希氏は一体何に関わっていたのか大変興味深くございますね」 「瑞希は至って普通の大学生で、向こうに関与はしていない」 「では何故」 「私から説明させていただけませんか」  それまで貝のように押し黙っていた愛が口を開いた。  店のトップ同士の会話に割り込むのは相当の勇気だったようで、額に汗が滲んでいる。  いや、もしくは情報を出し惜しみして前に進まないやりとりに限界を感じたのかもしれない。 「私は、堺にて鵜亥さんの組織に所属していた者です」 「正しくお願いいたします。今も、では?」 「さっきこいつは組織に対して最大の裏切りをしたらしい。脱退したと思ってくれ」  唇を噛みしめる愛に「なるほど……」と頷く我円。 「鵜亥さんは青年の人身売買、臓器密売を行う傍らで、必ず傍においている青年が一人いました。性処理の対象でもありましたが、何よりも大事にしていた存在です。それでも過激な行為に命を落とす者も数多く、そうして五年前に今となってもかけがえのない存在、巧に出会ったのです」  脳裏に組織に連れてこられたばかりの少年が浮かぶ。  面白そうに眺める鵜亥の眼も。 「彼は二年と云う信じられない時間を生き抜きました。私達は、一生彼を手放すことはないのだと誰もが感じ取っていました。しかしそんな矢先、ある運び屋に青年は奪われました」 「運び屋フラン。有名な話じゃないですか」  予想外の我円の言葉に唖然とする愛。 「知って……らっしゃるんですか」 「彼は昔東京でも活動していましたし、偽造パスポートの案件で失敗し雲隠れしたと伺っていましたが、まさかそれが戒だとおっしゃるおつもりでしょうか」  話の先を読み取った質問に、愛は頷いた。

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