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どんな手でも使いますよ06

 ふっと笑って我円が目線を逸らした。 「失礼。余りに面白い話でしたので」 「だが、今の状況は余り面白くはないんだ。時間がない」 「随分と丁寧な手段を選びますね。前回のように強行には至らないのですか」 「今回は相手が違う。聖みたいな世間知らずのガキならまだしも、簡単に人を殺す集団だ。言うつもりはなかったが、既に犠牲が出ている」  声の低くなった篠田を見た我円がヘルプを呼び戻して、何か指示した。 「シャドウの吟氏も携わっているようですね」 「情報が早いな」 「なるべくことを大きくしたくない理由がおありのようで御座いますね。シエラの未来に関わることでもあるようにお見受け致しますが」 「憶測で話すのはやめよう」 「ええ」 「お待たせ致しました。ご指名有難うございます、戒と申します」  不穏になった空気を裂いて現れた男を三人が一斉に見る。  片膝ついて礼をした戒が、顔を起こした。  ハッと愛は身を強張らせたが、どうやら記憶には残っていないらしい。 「ドンペリロゼ、スパークリング、二本ずつ」  篠田が早口で言う。  それに満足そうに頷いた戒が、我円の隣に座る。 「戒、仕事時間だが、彼らのアフターに出なさい」  着いて早々の我円からの命令に動きを止める。 「どういうことです」 「それはことが終わってから説明してもらう。お前の過去と、秘密も含めて」  僅かに瞳孔を開いた戒が愛と篠田を見比べる。  必死に記憶を辿っているのだろう。  そして、何かに辿り着いたのかもしれない。  バッと立ち上がってその場を去ろうとした。  だが、その手首を手錠より強く拘束する我円の手に引き戻される。 「どんな事情があっても、客の前から理由もなく立ち去ってはならないよ」 「お言葉ですが、彼らと話すことは何も」 「巧の件で話がある」  遠慮なく名前を持ち出した篠田を信じられないといった顔で愛が見るも手遅れで、手を振りほどいた戒が店を縫って外に飛び出す。 「あらあらあら」 「追うぞ、愛。借りて行っていいんだな、我円」 「はいっ」 「明日にはお返し下さいよ……会計も」  頭を押さえて呟く我円を背に、二人も外に出る。  探そうと駆け出そうとした篠田の襟首がぐいと引っ張られ、路地裏に連れ込まれる。  愛も急いでそれを追ったが、そこで眼にしたのは篠田の首に腕を回し締め上げる戒だった。 「っく」 「誰だ、お前ら」

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