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どんな手でも使いますよ11

 そこでにやりと笑った汐野が手を止める。  身を傾けて、自分のシャツのボタンを外して肌蹴させると、俺の手を掴み上げた。 「な……」 「見たことあるか?」  空いた手でシャツを下にずらした汐野の胸に、サファイア色のチャームがついたピアスが二つ揺れていた。  見ただけでうなじに痛みが走る、生々しい姿。  目を逸らしても、動かない俺の指先をそこに当てる。  金属の硬い感触と、それに貫かれてる肌の感触。 「ひっ……」 「掴んで引くとな、逝くほど痛いで」  俺の人差し指をそこに掛け、ゆっくり俺の方に倒す。 「や、やめろ」  怖い。  見たくない。  離して。  自分に痛みはないのに、鳥肌がざわりと立つ。  チャリ、と金属音が妙に耳に響く。  たった数ミリしか動いていないのに、全身が汗だくになる。 「離せっ!」  そこで汐野が指をそこから解いてきゅっと握った。 「冗談」 「はあっ……はあっ、悪趣味」  人差し指が痺れてる。  本当に、怖かった。  人の肌が伸びるとこなんてえぐすぎる。  心臓がバクバク鳴っている。  汐野が返事をしないので顔を上げると、真顔で俺をじっと見つめていた。  俺を透かして違う誰かを見ているように。  遠い眼で。  なんだ。  ざわつく。  頬に手を当てられ、汐野の顔が近づく。  息が止まりそうになる。  唇が触れそうな距離で、汐野はぴたりと止まった。  目をぎゅっと閉じてしまう。  吐息が唇を撫でる。 「……あほらし」  すっと離れた汐野が口を手で押さえて踵を返す。  大きく息を吐く音が聞こえる。 「あー……壊したいくらいお前が羨ましいわ」 「……え?」  振り向いた眼光の鋭さに口をつぐんでしまう。 「もうすぐ鵜亥はん戻って来るからな」  俺にはそれが、「良かったな」という響きを伴って聞こえた。  なんで。  からかったり、俺を羨んだり。  わからない。  俺のことを何だと思ってるんだ。  散々心をかき乱して、汐野は出て行った。 「そうだ、類沢さん……っ」  汐野は何て言ってた。  豚って誰のことだ。  俺だけじゃなくて、類沢さんにも何か起きているのか。  忍の件と関わってるのか。  あの電話の後、皆に何が起こってる。  そうだ、拓は?  忍の手術の知らせは受けたのか。  安心して眠れてるか。  そこで力が抜ける。  俺、ナニ考えてるんだ。

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