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どんな手でも使いますよ10

 何も聞こえない。  耳鳴りが強すぎて、すぐそばを飛行機が飛び出そうとしているように鼓膜がおかしくなりそう。  天井が凄く遠く感じるのは、眼がおかしいからか。  指一本動く気しないな。  なんだっけ。  意識がなくなる前、何が起こってたんだっけ。  首筋が張ったまま痙攣している感じがする。  いや、全身?  指先がずっと震えてる。 「る……い、さわさ……ん」  ふっと影が差す。 ―起きた? 瑞希―  あ……類沢さんだ。  家のベッドに戻ったんだ。  夢でも見てただけなんだ。  ほら、だって類沢さんがコーヒー片手に笑いながらさ。  そろそろ仕事行くから起きなよって。 「イイ夢でも見てたんか? んなニヤニヤして」  汐野が怪訝そうな顔で覗きこむ。  その瞬間全部が蘇った。  そうだ、俺……もうシエラ辞めて、鵜亥って奴に散々甚振られて。 「さっき呼んどった類沢とかゆう奴は来おへんで。あっちはあっちでお楽しみ中やからな」 「え……」  汐野が部屋の隅の棚の中身を探りに離れる。 「邪魔なんも嫌やから帰ってきたけどな。あの豚よりずっと鵜亥はんのがましやと思うで」  誰のことを言ってるんだ。  顔を起こそうとして、身体の痛みに悶絶する。  そんな様子を見た汐野が溜息を吐きながら戻って来る。 「動かん方がええで。腫れてるとこ薬塗っとくから大人しくしい」  手に持ってきたチューブの蓋を外し、ジェルを肌に付ける。 「っ……」 「冷たいし気持ち悪いやろけど、我慢してな」  細い指が胸部を這う。  ぞくぞくと背筋に寒気が走る。  下唇を噛んで耐えていると、汐野が目を細めて小さく笑った。 「いや、お前……びくびくしてるとこしか見たことないなって」  苛ついたのが伝わったのか、弁解するように説明する。 「少しは反抗せんと、すぐ飽きられて売り飛ばされるで?」 「売り……?」 「外国の成金デブにアナル拡張されて一生人形みたいに扱われんのと、鵜亥はんの元におんの、どっちが楽やろうね」  さっきから日本語なのにこの男の話についていけない。 「いっつ……」 「ここもすぐ穴でも空けられるんかな」  乳首をぴんと指先で弾きながらとんでもないことを口にする。 「……は?」 「ピアスも開けてへんのに、いきなりニップルピアスか。リングから始めてもらえりゃええなあ。可哀想」 「なに……それ」

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