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どんな手でも使いますよ09
ビリビリと空気が震える。
ふーっふーっと巧の荒い息だけが響く。
「……話を聞け」
「誰なん」
「俺達はホストだ」
「鵜亥さんのなんなん」
「関係者かな」
「オレを連れ戻しに来たん?」
「違う」
「じゃあっ、なにしにっっ、ここに来たんや!」
戒が力任せに座らせる。
凍り付いた空気の中で、変わらず穏やかな声で篠田が言った。
「君と同い年くらいのうちのホストがな、騙されて鵜亥の組織に捕まっている」
「え?」
「そいつは、君の代わりとして鵜亥にこれから愛玩具にされるんだろう」
下唇を噛み締めて巧が聞き入る。
「俺はそいつを助けたい。だが、打つ手が今のところない。唯一頼れるのが、鵜亥が溺愛していたという君だけなんだ」
カチカチと秒針の音が空気を打つ。
膝の上で拳を強く握る巧が、震える声で問う。
「あんたは……オレをそいつの代わりに売りたいんか」
「違う。必ず約束する。君に危害は加えない。絶対に守る。だが、交渉に付き合って欲しい。一芝居打たないとならないが」
「なんて名前?」
「あ?」
「そのホスト、なんて名前?」
やっと誰を指しているか気づき、名前を告げる。
「瑞希、か……今そいつは、鵜亥さんの元におるんやね」
「ああ」
「あの人の元に……」
戒が肩を抱いても、巧は怯え続けていた。
「ご、めんなあ? 戒……まだ、オレあかん」
「気にするな」
「名前、聞いただけで……っ、怖くてな」
そんな二人の様子をただ黙って篠田は見つめた。
何かに怯える、か。
そんな態度、あいつは見せたことも無かったから、つい新鮮に感じてしまうな。
雅。
この青年と同じような境遇だっただろうに。
いや、それより酷かっただろうに。
すべてに無関心といった顔して、俺を見上げてたな。
「オレが行けば、助かるんやね……瑞希は」
「必ず」
「戒、行っても……ええかな」
「巧……」
「馬鹿かもしれんけど、オレな、ずうっと後ろめたかってん。あの時残してきた他の男の子たちのこと。あの後海外に売られたかもしれん。殺されたかもしれん。オレだけ生き延びて戒と幸せに暮らしとる。それでええんかって……だから、だから今オレが誰か助けられるんやったら」
「無理はするなよ」
ぐっと肩の手に力が籠る。
巧は答えるように戒に顔を向けた。
そしてぎこちなく笑う。
「初のお客のお願い聞かん奥様、嫌やろ?」
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