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どんな手でも使いますよ08
「我円さんが信用しているんだろ。だったら先に、巧を絶対に傷つけないと誓ってくれ」
「誓う」
早すぎる返答は不信感を与える。
それでも、戒は頷いた。
それだけ篠田の本気が伝わってきたから。
愛は息を呑んでなりゆきを見守っていた。
やはり、篠田さんは凄いですね。
一時はどうなるかと思いましたが。
戒を乗せて、三人を乗せて車が発進した。
大きな駐車場に車を停めて、路地に入っていく。
道を覚えさせないためか、何度も角を曲がりながら。
「車で前まで行ってはいけなかったんですか」
「あんな目立つ車止められては堪らないからな」
愛の疑問を一蹴し、ある住居の前で足を止める。
アパートかと思っていたが、一軒家だった。
「出かけて無ければいいが……」
そう言いながら鍵を回したと同時に扉が突然開き、人影が飛び出した。
「おっかえり、ダーリン! 随分早かったんなあ今日はっ。オレのかーいー!」
抱きついてきた青年をあきれ顔で引きはがしながら、篠田らを振り返る。
含み笑いをするその顔に虫唾が走るが、戒は落ち着いて紹介した。
「こいつが巧だ。中で話そう」
「うわっ、誰やねん! あんさんら!」
今頃になって来客に気づいた巧を担ぎ上げ中に入る戒に続く。
「おーろーせーやー」
ソファに無造作に下ろした巧のそばにどんと腰かける。
向かいに座った篠田と愛が、室内を眺めもせずに本題に入ろうとする。
「それで」
「なあなあ、ごっつホストらしい人らやねー。戒が客連れてくるなんてないからなー珍し。同僚さん?」
「お前はちょっと黙ってろや」
巧につられて関西訛りになる戒に、張りつめていた空気が緩む。
「だってー。気になるやんか。オレ戒の奥さんやねんで」
「マジで黙ってろ」
迫力のある低音で凄まれ、やっと巧が大人しくなる。
しかし小声で「照れ隠しやろー」ともごもご言っているのは、全員の耳にしっかりと届いているが。
「それでだな、さっき話したことの続きに戻るが。これから鵜亥の東京本拠に共に来てほしいんだ」
ガタンッ。
今まで子犬のように笑顔だった巧が一気に表情を失って立ち上がった。
その肩に戒が手を乗せる。
「座れ」
「今……鵜亥て言うた?」
「座れって言ってる」
息が荒くなり、巧が拳を握る。
「帰れ」
「巧」
「帰れやっ! 二度と聞きたくないその名前!」
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